第9話 漆黒と解
放課後。
俺は涌井が教室を出るのを無言で見送る。本当なら周りなんて気にせず一緒にそのまま行けたらいいのだが、現状そうもいかない。
そしてしばらくすると、星野がカバンを持って俺の席へ来る。
「星野、今日はありがとな」
「構わねーよ。しかし友利のやつ、なかなかに面倒くさそうだったぞ。なんか自分は信用されてないのがあーだ、こーだって」
「友利さんへのフォローもしないとな……」
しかしいつも友利さんも放課後は俺の机のところに来て軽く雑談してから部活に行くのに、今日は来ない。そう思い友利さんの席の方を見るともう彼女の姿はなかった。
「あれ? 友利さんもういない……?」
「珍しいな。ま、部活が忙しーんじゃね? あいつ剣道部の部長だし」
「それならいいんだけど……」
あの後教室に戻ってから何だかんだで、まだ一度も友利さんと話せていない。昼の件は直接謝りたかったんだが仕方ない。
「んじゃ俺も部活行ってくるかー。また明日な!」
「うん、また明日」
星野が教室を出てからしばらく経ってから、俺は教室を出ていつものように涌井の待つ生物室へ向かう。
最近は涌井もだいぶ話してくれるようになってきた。言葉遣いも他人行儀だったのが、だんだんタメ口に近くなってきて、距離が縮まったのを感じていた。
なんて考えていると嬉しくて少し表情が緩んできてしまう。
涌井と会うときにこんな顔してら気持ち悪がられるよな、気をつけないと……そう思いながら生物室の扉を開けようとする。
が、扉は鍵がかかっていて開かなかった。
「あれ? まだ来てないのか?」
今までで俺の方が先についたパターンはなかったので少し気にはなる。まぁでもちょっと待ってたら来るだろうと鞄を廊下に置いた時だった。
「涌井を待っているのか?」
急に背後から男の声がして俺は振り返る。
そこには細長い鋭い目つきに体格のいい短髪ツンツン頭の男が立っていた。たしか同じクラスの名前は……多和田。
「っ!……」
「図星か。ま、じゃないとこんなところに用はないだろう。昼もここに来てたみたいだしな」
多和田はそう言いながら俺の目の前まで顔を近づけてくる。なぜ彼がここに来たのか、なぜ涌井とのことを知っているのかは分からないが、その表情から友好的ではないことだけは確かだった。
「……で、君こそ何の用?」
「お前が涌井と仲良くされると困るんだよ……友利さんがよぉ!」
多和田はそう言って俺の胸ぐらを掴む。
友利さんが? ……そうだ。こいつは普段から友利さんによくくっついているやつだ。友利さんと話してるときに嫌な視線を感じることがよくあったが、こいつのだったのか。
「友利さんの指示なのか?」
「いや、俺が勝手にしているだけだ。お前が余計なことをしてクラスの和を、友利さんの心を乱さないようにするためにな」
「……だからって放ってはおけないだろ! 女の子一人をクラス全体でいじめて楽しいのか!?」
俺は胸ぐらを掴んだ多和田の手を掴む。
ここで俺が折れてしまっては涌井はもう二度と救われなくなってしまう気がした。
「チッ、よそ者が綺麗事を! お前は涌井のことを何も知らないからそんなことが言えるんだ」
「涌井のこと……!?」
「せっかくだから教えてやるよ。涌井は……友利さんの兄を殺したんだよ」
「えっ……」
俺はその言葉の大きさに驚き、全身の力が抜ける。
涌井が友利さんの兄を……殺した!?
あまりの衝撃に俺の頭は混乱する。
「……し、信じられるか、そんなこと!!」
「本当よ」
聞き慣れた声のした方へ振り向くと、そこには事の中心人物である友利さんが立っていた。
「友利さん!? どうしてここへ!?」
多和田も友利さんが現れた事に驚いた表情をみせる。この反応からして俺への接触は本当に多和田の独断だったのだろう。
友利さんは多和田の質問など無視して、ゆっくりと俺の目の前へ歩み寄ると、俺の目をじっと見つめる。それは冷たく深い漆黒の瞳だった。
しばらくの沈黙。
緊張感から俺の背中には冷たい嫌な汗がつたうのを感じた。
そして彼女は口を開き、ハッキリとこう言った。
「一年前、私の兄、友利ツトムは……涌井ユイに殺されたのよ」
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