第8話 期待と疑心
私はトイレで鏡を見て前髪を整えながらさっきまでの、松坂くんとのやり取りを思い出していた。
松坂くんのお弁当美味しそうだったなー。
卵焼きとウィンナーはとても美味しかった。それに松坂くんのは、は、箸で食べてしまった。
言ってはみたものも実際に食べる時はすごくドキドキしたけど、そんな姿見せても引かれるだけだ。
……彼は私の事をどう思っているのだろう。
最初はあの日の傘のお礼のためだけだと思っていた。でも彼はそれ以降も私に話しかけてくれる。クラスで孤立している私を。しかも友利さん達に気に入られているのに。
なぜなんだろう?
もしかして彼は、松坂くんは私のことが好きなんだろうか?
いや、そんな思い上がったことを考えちゃ駄目だ。
……でも彼が私のことを好きなのだと仮定したら今までの彼の行動は納得がいく。
「松坂くん……」
ああ、もっと彼と話したい。一緒にいたい。
友達も恋も、もう諦めていたはずなのに。
彼に出会ってから今まで嫌だった学校が楽しみになっていた。教室で話せなくても放課後生物室で話せる。これからは帰り道も昼休みも。
松坂くんは何とか私の今のクラスでの扱い、友利さんとの関係を変えようとしてくれている。
……でももし関係が緩和されたら松坂くんと私の二人だけの空間、二人だけの時間がなくなってしまうのではないだろうか?
松坂くんが私に優しくしてくれるのは私が酷い目にあわされているからなんじゃないだろうか、と……。
♢♢♢
何かおかしい。
彼を疑いたくはないが、どうも納得がいかない。
「おい友利、まだ怒ってんのか?」
私が弁当を片付けていると星野の馬鹿が声をかけてくる。
普段は松坂君と一緒に昼食をとるときにコイツもいるから仕方なしに食べてたけど今日は別で食べていた。まぁ松坂君がいないのならコイツと二人で食べる理由はない。
「別に怒ってるわけではないわ。ただ納得いかないだけ」
「納得いかないって言われても仕方ねーだろ。松坂がおばあちゃんから携帯に電話が来てて、昼休みにかけてくるから先飯食っててくれって言われたんだからよ」
「別に松坂君を疑ってるわけじゃないわよ! アンタにだけその事を伝えてるってのが納得いかないのよ!」
「は、はぁ!? なんだそりゃ。そら男友達なんだから俺のが話しやすいに決まってんだろ」
違う。いつも一緒に食べてるんだから私にも一声あったっていい。星野のが私より信頼されてるなんてあるはずがない。
私は弁当をカバンにしまい、スマホをポケットにしまおうとして、スマホにメッセージの通知が来ていたことに気づく。
「ふん、まぁいいわ。さっさと自分の先に戻りなさい」
「何だよ、相変わらず偉そーだな……、言われなくても戻るっつーの」
私は星野が去ったのを確認し、メッセージを開く。送り主は
そして今来たメッセージの内容は、ついさっき二階から降りてくる松坂君を見たと、そして二階を見に行くとしばらくして生物室横の女子トイレから涌井ユイが現れたということだった。
「チッ……涌井……ユイ!」
私はその名前を見てスマホを強く握りしめる。
涌井は確か生物部でよく生物部に篭っているという。もしかして二人でお昼を過ごしていたのではないか。
どうして彼は涌井ユイなんかを気にかけるのだろう?
いや、悪いのは涌井ユイだ。
松坂君は優しい人だから優しい松坂君の気持ちを受け入れる涌井ユイが悪い。
あの女には幸せになる資格なんてないのだから。
「涌井ユイ、アンタだけには絶対に渡さないんだから……」
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