第4話 決意と壁


 今日で転校してから3日が経った。

 現状で涌井ユイについて分かったことがいくつかある。


 まず彼女はなんらかの理由でクラスから除け者にされている。

 理由はまだ詳しくわからないが、クラスの中心人物である友利アキカとの関係の悪さが大きな原因である可能性が高い。

 他のクラスメイト達も涌井さんの事はほぼ無視しているし、俺が涌井さんの事を聞くと答え辛そうにする。


 だが、それはその場に友利さんがいるかどうかが大きい事もわかってきた。特によく話す星野なんかは友利さんがいない時だと涌井さんの事を少し話してくれたりもする。


「よっ! 朝から暗い顔してんなー」


 なんて事を考えながら登校していると、門の前で後ろからポンと背中を叩かれる。

 振り返るとそこには転校してからよく話す星野がいた。


「星野か、おはよう」


「おっす! 今日は松坂がきて初めての体育だな。ちゃんと体操服持ってきたか?」


「ああ、もちろん。前の学校のだけどね」


 一応先生に確認するとそれでもいいとのことだったのでそうした。


「よし! じゃあ体育で勝負だな! 勉強はちょっと苦手だが体育は自信あるんだぜ!」


 そう言って星野は自信満々な顔をする。


「勉強が苦手なのはちょっとどころじゃないでしょ」


「げっ、友利!」


 背後から鋭いツッコミをいれられ振り返ると友利さんがいた。


「アンタみたいな馬鹿と同じ学校なのが恥ずかしいわ。でもこの辺は学校が少なすぎて偏差値なんてほぼ関係ないのよね……アンタは卒業してもここの卒業生って言わないでよね、私の価値が落ちるから!」


「友利……お前相変わらずハッキリといいやがるな……そんなんじゃ彼氏できねーぞ」


 星野も流石にここまでハッキリ言われるとショックなのか少し落ち込んだ様子を見せ、小声で一言ささやかな抵抗をする。


「っ! ……あら、なんか言ったかしら?」


「いや、な、なにも……」


 が、すぐに友利さんの剣幕に押されて黙ってしまう。


「まったく……それに比べて松坂君は勉強結構できそうよね。授業中の受け答えとか見ててもそう感じるわ」


「ありがとう。……まぁ一応前の学校ではちゃんと授業受けてたからね」


「むっ、授業なら俺も受けてるぜ!」


「アンタは黙ってなさい。私は松坂君と話してるの」


「……はーい」


 星野はまたしても黙らされる。


「松坂君はどこの大学受けるの? やっぱり向こうに帰るの?」


「うーん……まだはっきりとは決まってないけどそうなるかも。奨学金とバイトでなんとか通えないかなって」


「いいなー△△市。私もそこの大学受けようかなー。こんな田舎いても全然楽しくないし」


 そう言って友利さんは上を向く。確かにここじゃ今時の高校生が遊ぶような場所はなく退屈なのはわかる。いい村だとは思うけど一生住むのは悩んでしまう。


「えっ!? 友利、村出るのか? お前ん家じゃ無理だろ」


「っ!……いちいちうるさいわね。言ってみただけよ」


 いつもならまた声を荒げて怒りそうな場面なのに、友利さんは一瞬険しい表情をして何かを諦めるかのようにそう呟いた。


「私、職員室に用事あるから。それじゃまた教室でね松坂君」


 そう言い残すと友利さんは下駄箱の方へ少し駆け足で向かった。

 俺は友利さんがいなくなったのを確認してから星野に話しかける。


「星野、さっき言ってた友利さんの家じゃ無理ってどういう意味?」


「あー、あいつん家ってこの村で偉い人で色々とややこしいんだわ」


「偉い……人」


「ああ。怒らせると村に住めなくされるって噂もある。そしてその友利家の後継が友利になるってわけ。だからみんななんも言えねーってわけ。ま、あいつの態度とか性格がキツいからってのもデカいけどな。むしろそっちのがあるかも……これは内緒な」


 なるほど。そういう家で育ってきたから彼女はあんなにも凛々しく堂々としていたのか。

 それにもし友利さんと涌井さんの間でなにかがあったのだとしたら今の関係も説明がつく。


「そういや星野は普通に失礼なこととか言ってるけど大丈夫なのか?」


「あいつとは幼馴染だからよ。ってもこの村は皆幼馴染みたいなもんだけど。その中でも特にあいつとは家も近いしでこんな関係なんだわ」


「……なるほど」


「まぁお前はなんだか気に入られてるみたいだからその辺のことは気にすんな!」


 そう言って星野はまた俺の背中を軽く叩く。


「そう、かな? 転校生だから珍しいだけだろ?」


「俺にはわかんだよ、十七年の付き合いだからな。ま、これでお前の学校生活も安泰だな」


「ははは……」


 この時俺の中で一つの考えが浮かんだ。

 涌井さんと友利さんが仲良くなれれば全て解決するんじゃないだろうか、と。

 二人にどんなことがあったのかはわからない。しかし友利さんさえなんとかすればみんなの涌井さんへの扱いは変わるはずだ。


 ……俺はもう、目の前で救えるかもしれない人を放っておくことはしない。

 一年前のあの時、俺はそう誓ったのだから……。

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