第2話 初日と影

「えー今日からクラスメイトになる松坂ヒロ君です。〇〇県△△市の都会から来たそうで色々と不便はあるでしょうが仲良くしましょう」


 眼鏡をかけた七三分けの担任教諭、伊東にそう紹介されて俺は挨拶をする。


「初めまして松坂ヒロです。よろしくお願いします」


 俺が挨拶を終えるとクラスは騒がしくなる。


「こんな田舎に△△市から転校生なんて珍しいなぁ」


「結構イケメンじゃん!」


「さすが都会の人、オーラが違うよね〜」


 先生がいちいち何処から来たかとか言うので無駄に盛り上がってしまう。△△市は東京や大阪に比べたら全然都会じゃないのでちょっと恥ずかしい。


「えーでは松坂君はそこの空いてる1番後ろの席へお願いします」


 俺は言われた通り廊下側の1番後ろの席に向かう。そして席の前に来た時、隣の席にいる女子生徒をみて俺は驚く。


「君は……昨日の!?」


 そこにいたのは昨日俺に傘を貸してくれたあの女性だった。


「なになに? 涌井わくいと知り合いなん?」


「あの根暗女が都会からのイケメン転校生と? まさか〜」


 俺が彼女に声をかけるとヒソヒソと周りから良くない内容が聞こえてくる。


 彼女もそれが聞こえたのだろう。俯いて俺から目を背ける。

 とりあえず俺は席に座り、一限目を迎えるのだった。



 チャイムがなり一限目が終わる。俺は隣に座る彼女に声をかけようと思ったが、すぐに俺の周りに人が集まってしまう。


「松坂君、質問いい?」


「なんで龍宮子になんて来たの?」


「△△市ってヤクザ多いって本当!?」


 まるでよく漫画とかで見るような転校生への質問一気攻めに、つい戸惑ってしまう。


「そんないっぺんに質問しては彼が大変よ」


 そんな中、その一声で騒がしかった場が一気にシーンと静まり返った。

 その声の主は赤茶色の髪をツインテールにした女性だった。普通ツインテールというと幼いイメージがあるが、それに反して凛とした雰囲気のある女性だった。

 一言で周りが静かになったこと、それにこの雰囲気で彼女がこのクラスのトップであることは明白だった。


「初めまして、私は友利ともりアキカといいます。よろしくね松坂君」


 そう言って彼女……友利さんは俺に向けて手を差し出す。これは握手を求めているのだろうか。


「あ、ああ。よろしく」


 俺はそれに応え、彼女の手を軽く握る。


「何か困った事があったら私か……彼、豊田とよだ君にでも聞いてもらえるといいわ」


「どうも豊田とよだです。クラス委員長をやってますので、何かあれば是非聞いてください」


 友利さんに呼ばれて豊田と名乗ったのは、眼鏡をかけた真面目そうな男子生徒だった。見た目からして委員長といった感じだ。


「こちらこそよろしく。わかった。何かあったら聞かせてもらうよ」


 なんてやり取りをしていると、隣の席の彼女が俺の後ろを通りひっそりと教室を出ようとしているのが見えた。


「あっ! 待って!」


 俺はつい立ち上がり彼女に声をかける。一瞬立ち止まった彼女だが、すぐに教室から出て行ってしまう。


「どうかしたの? ……もしかして涌井……さんと知り合い?」


「いや、知り合いっていうか、ちょっと話したい事が……」


「……」


 その瞬間、何か雰囲気が一瞬ピリついたのを感じる。やはりここではあの子と接するのは良くないってことか。


「……それよりも二限目なんだけど……」


 友利さんは何事もなかったかのように話を続ける。が、俺はどうしても彼女の事が気になる。


「ごめん、ちょっと!」


 俺は話を止めると、集まった人をかき分け、彼女を追って教室を出た。




「待ってくれ!」


 俺は廊下に出ると少し大きな声で彼女に呼びかける。それを聞いて彼女は後ろを向いたまま立ち止まる。


「昨日は傘、ありがとう。明日持ってくるよ」


 そう伝えると彼女は小さな声で、


「……別に、いつでも、いい」


 とこたえる。


「ところで名前、聞いてなかったよね。俺は松坂ヒロ」


 俺は立ち止まった彼女の元へ歩み寄る。


「……涌井わくいユイ、です……」


「涌井さん……ありがとう名前教えてくれて」


「……いえ。……その、わ、私とあんまり話さない方が、いい……ですよ」


 涌井さんはそう言い残すと廊下の奥にある女子トイレの方へと早足で去っていったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る