変わらない僕ら

 癖になる潮風の匂い。柔らかい砂浜。後ろを振り向くと、二人の足跡が混じりあっていた。まるで、二人三脚をして来たみたい。

 海に着くと、僕らは砂浜に転がった。

「はぁ、疲れたー!」

二人の声がシンクロする。あまりに面白くて僕らはぷぷぷと笑った。

「俺らってずっとこんな感じだよな」

「こんな感じって?」

「全くタイプの違う二人なのに、どこか似てる部分がある感じ」

「まあ、僕は生まれたときから刻音のこと知ってるからね」

「いつもはそんなこと言わないのに。どうした。やけに素直だな」

「まあ、最期なんで。強がりで泣き虫な幼なじみに別れを告げておこうと思って?」

「なるほど。じゃあ俺も、最期まで素直じゃない幼なじみに別れを告げておこうか」

「じゃあ、かっこいいこと言ってきめてよね。刻音くん」

「うわあ。そういうとこだよ」

 僕らは最期まで変わらないことに、このまま無事に生涯を終わらせられそうなことに、安心した。

「まあ、でも17年間ありがとうな。美暮のそういうところ大好きだよ」

僕はドキッとした。心臓だけは素直だ。真正面から言われると照れる。

「そんな告白みたいじゃん。刻音なのにドキドキしちゃったよ?」

「酷いなあ。本心を伝えただけなのに」

「ごめん。冗談だよ。僕の方こそ今までありがとう。刻音が居たから、僕はここまで生きてこられた」

「本当か? これ、案外照れくさいね」

沈黙が流れる。彼の横顔は期待と諦めが混ざっていた。

「刻音。これあげるよ」

「飴玉!?」

「僕のリュックに2粒だけ入っていたんだ。最期の日に食べようと思って、取っておいた」

「お前最高かよ?」

刻音はその飴をすぐ口に放り込んだ。僕も、それを真似した。サイダーのシュワシュワが水分を失った口を刺激する。僕らは最期の食事を味わった。

「刻音。本当にやり残したことない?」

「あぁ、もうないよ。十分だ。後は、千風に会いに行くだけ。美暮。最期まで付き合ってくれてありがとう」

「それは、僕のセリフだよ。今まで本当にありがとう」

 本当に最期が来たようだ。この星を狂わせた人類が終わる。いざ、死を目の前にすると、少し怖くて、涙が出てしまいそうだったけれど、刻音を想って必死に堪えた。

 ここで、どちらかが泣いてしまったら僕らは死ねなくなる。

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