「俺が死にたいと思い出したのは、千風が死んでからだ。あの時、俺がもっと速く走っていれば。もっと早く千風の苦しみに気付いていれば。何もあいつは死なずに済んだのかもしれない。今でも、毎日あの日のことを思い出すんだ。彼がなぜ死にたがっていたのかは不明だけれど。あいつは、俺の体に後悔だけを残して無になった」

 作り話だと思いたかった。刻音の話に涙が出そうになったけれど、彼もそれを必死に堪えているようだったから、僕も我慢して彼を抱きしめた。力強く、優しく包み込んだ。

「刻音、辛かったな。僕は最期まで、刻音のそばにいるから。刻音の中に何も残さないから、明日、千風に会いに行こうよ」

全てが無くなった世界で、僕にできることは刻音に寄り添うことだけだと思って、最期まで一緒に生きることだと思って、根拠の無い文字の羅列で彼を励ますことはしなかった。

「あぁ、もう明日が金曜日か」

「うん。あっという間だったね」

「俺、千風に会えるよね」

「もちろん。千風どころかみんな僕らを待っているよ」

 二匹の猫が最期の夜を超える。一匹ではもう立っていられない身体を寄せ合うように。

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