夜
「俺が死にたいと思い出したのは、千風が死んでからだ。あの時、俺がもっと速く走っていれば。もっと早く千風の苦しみに気付いていれば。何もあいつは死なずに済んだのかもしれない。今でも、毎日あの日のことを思い出すんだ。彼がなぜ死にたがっていたのかは不明だけれど。あいつは、俺の体に後悔だけを残して無になった」
作り話だと思いたかった。刻音の話に涙が出そうになったけれど、彼もそれを必死に堪えているようだったから、僕も我慢して彼を抱きしめた。力強く、優しく包み込んだ。
「刻音、辛かったな。僕は最期まで、刻音のそばにいるから。刻音の中に何も残さないから、明日、千風に会いに行こうよ」
全てが無くなった世界で、僕にできることは刻音に寄り添うことだけだと思って、最期まで一緒に生きることだと思って、根拠の無い文字の羅列で彼を励ますことはしなかった。
「あぁ、もう明日が金曜日か」
「うん。あっという間だったね」
「俺、千風に会えるよね」
「もちろん。千風どころかみんな僕らを待っているよ」
二匹の猫が最期の夜を超える。一匹ではもう立っていられない身体を寄せ合うように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます