提案

 不思議なことに昨日と同じ太陽が昇る。瞼に映る青白い光で目を覚ます。刻音はまだ眠っている。泣きつかれたのかな。しばらくそっとしておこう。

 あぁ、こうしてみると、僕らの街、国、星は本当に終わってしまったのだなと思う。瞼を開ける前はどうか夢であってくれと少しは期待したものだが、現実はそう甘くない。昨日は僕の望み通りになったなんて言ったけど、寂しくないわけではない。できれば、お世話になった人たちに「ありがとうございました」と一言伝えたかったものだ。

「美暮……? おはよう」

刻音が目をこすりながら起き上がった。一晩中泣き叫んでいた彼を思い出して、なんと声をかけたらいいのか分からなくて僕はただ一言

「おはよう」

と言った。

「美暮、俺うるさかったから眠れなかったよな? ごめんね」

「いや、気にしてないよ。だって」

「だってこの世界が終わっちゃったから? みんな死んじゃったから?」

「うん。僕だってまだ、信じられてないし」

「……」

彼は黙っている。僕が何か変なことを言ったかもしれないと思ったけど、彼は何か考えているようだ。しばらくして彼が口を開いた。

「美暮。へんなこと言ってもいい?」

「あぁ、うん」

「俺さ、なんで泣いていたか考えてみたんだけど。みんなが居なくなったことよりも、死に損なったことが悔しくて」

 彼の言葉にドキッとした。生き残りの彼が自分のことを死に損ないと言ったのだ。彼は続けた。

「俺はずっと死にたかった。でも、そんな勇気はなくて。いっそのこと地球が滅亡してしまえば最高なんじゃないかって思っていた。もう何年も思っていた。本当に自分勝手な話だよ。そんな矢先だった。学校に向かう道で見たんだ。西の空にものすごい勢いで流れる大きな流れ星を。俺はそこでも願った。死ねますようにって」

 意外だった。刻音が死を語るなんて。こういう場合、主人公はどうにか生き延びる方法を探すのではないのか。死に損ないの僕を励ますのではないのか。刻音は主人公ではない。無下な世の中に違和感を覚えすぎていた僕より、重たくて冷たいものを抱えているようだった。

 何が彼をそうさせているのかは知らないけど、今、僕がするべきことは彼の悩みを聞くことではないような気がして、気付いたら僕はこう言っていた。

「なあ、刻音。十三日後に僕といっしょに死なない?」

 あぁ、僕こそ変なことを言ってしまったかもしれないと思って恐る恐る彼の顔を見た。彼は、驚きでも、悲しみでも、喜びでもない、最期の希望に縋るような表情でこちらを見つめている。

「美暮。ありがとうだいすき」

「いや、大げさだよ。この様子じゃ、もうじき死ぬだろうし」

 僕らは死に場所を探す猫なのに、会話のテンポは教室の高校生だった。

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