第12話 告知

今話はこの3人の続きです。


◇◇◇◇◇


「はぁ……。とりあえずフレンドにもなったようだし、今度からは2人だけでやってくれ。いや、そもそも私はそこまで褒められるような人間では無いんだが……」


 リサは盛り上がる2人をどうにか収め、熱くなった顔を手で扇ぐ。


「いえ! 俺の知る会長は褒められるような人間ですから!」


「私もそれについて言いたいことはあるけど……もう12時ね。続きは今度にして、運営さんからのお話でも聞きましょうか」


 3人は間もなく12時ということもあり、話を区切ってモニターの方に目をやる。

 広告のようなものが流れていたモニターは、12時になったと同時に画面が乱れ、真っ白な部屋らしき場所が映る。


「『EDEN』をプレイしている皆様〜。どうも初めまして〜。私はこの世界のカミサマで〜す、どうぞよろしくお願いしま〜す」


 そんな声と共に、黒い革製の回転椅子に座った人が車輪を滑らせて画面内に入ってくる。

 人の顔を象った白い仮面を被っているため顔は一切見えないが、背もたれの黒い革で白い長髪が綺麗に映えていた。


「この度はプレイヤーの皆様にお知らせをしにまいりました〜、パチパチパチ〜」


 カミサマを名乗る人は白いシルクの手袋をしたまま拍手をする。

 その気の抜けた雰囲気で見ていたプレイヤーたちの気が緩んだが、次の一言で空気が一変する。


「まず始めに皆さんは『EDEN』内で1回デスをすると現実でも死にま〜す! 脳波に干渉して遮断することで、心臓と呼吸器官など自律神経系の機能を止められるので、ガチで死にま〜す」


 「死」という単語に、プレイヤーたちにどよめきが走る。

 まずそれが事実なのか、既にデスをして戻ってこない人は本当に死んでいるのか、様々な疑問が飛び交う。


「さらにログアウトも出来ないので、言わば電脳の孤島状態ですよ〜。ま、皆様からすれば現実味の無いことでしょうし〜? 約24時間後、25日の正午に現実の様子を見せてあげます。楽しみにしててくださ〜い」


「……カンナ、どう思う?」


「タチの悪い冗談としか。第一、現実の運営はどうしてるのよ。管理自体はAIがしているのはいえ、社員たちもいるでしょうに」


「AIが自意識をもってこんなことをしているのか、あるいは運営が自らしているのか。前者なら運営が動けば早いうちに解決するだろうが、後者だとすれば……」


「どうしようもない……ってこと、すかね?」


「そこは次第でしょうね。殺し合わせてデスゲーム……なんてするなら、初めから全員殺されるでしょうし。日本の国土と同等の広さのエリアを見るなんて出来るわけないから、何かしら道はあると思うわよ」


 3人は再びモニターの方に目をやる。カミサマはしばらく黙ったままだったが、しばらく待っているとまた動きを見せた。


「さて、皆様落ち着いた頃だと思うのでそろそろ何をして欲しいか話しましょうか」


「わざわざ待ってくれるなんて、随分人間思いのカミサマだこと」


「皆様には3つのルートがありま〜す。どれか1つが達成されれば、直ちに全員解放されるので頑張ってくださいね〜」


 カミサマは、立てていた3本の指のうち親指以外を下げて、こちら側――カメラの方向に示す。


「まず1つ目、このゲームのラスボスを倒すこと。皆様で協力してラスボスを見つけて倒してください。実に王道で平和な方法ですね〜! ……ま、そのヒントは一切出しませんし、被害がどのくらいになるかも知りませんがね」


 鼻で笑いながらそう告げ、今度は人差し指を立てる。


「2つ目、こちらは実に単純で道筋も分かりやすいもので〜す」


 そう言いながら、カミサマは手袋をしたまま指を鳴らす動きをする。パスンという掠れた音しか出なかったが。

 それでも意味のある動きではあったようで、後ろの壁に6桁の数字が表示できるデジタルの数字盤が現れた。


「7万4千と……数百ですか〜。情報絞った上で発表を日曜に調整したかいがありますね〜、予想以上に多いです。おや、意外と今も増減してますね」


 その数字の説明は無く、単位も示されることも無かった。だがその口ぶりから、何を示すものなのかかなりの人が察していた。


「という訳で、こちらは現在のプレイヤーの生存数で〜す。これが100を下回る、これが条件になりま〜す」


 なんてことは無い内容を話すように告げた。だが、ここまでの内容が全て事実とするならば、7万人を優に超える人が死亡することになる。

 そのあまりの倫理観の無さに、再びスクランブル交差点のプレイヤーたちがザワつき始める。


「ここまで必ず多数の犠牲が出るルートしかありませんでしたが、なんと私は優しいので〜? 理論上は両手で数え切れるだけの死だけで済むルートも用意していま〜す! パチパチパチ〜!」


 カミサマは両手を広げてカメラに向けると、再び拍手をして見せた。


「その方法は至って単純! 禁断の果実を食べた人を全員殺すことで〜す! 禁断の果実を食べた人は1人でも3桁人を相手出来るほど非常に強力なスキルを手に入れられます。そんなスキルを持つ人が一瞬でも0になれば即全員解放! しかもそのスキルを持つ人は同時に最大10人までしか増えません! ね、優しいでしょ?」


 3つの条件が明かされ、リサは頭の中でそれぞれの条件が及ぼす影響について考えていた。


「どうしたのリサ? 何かあった?」


「いや何、この3つの条件なんだが――」


 リサはそう前置きをして話し始める。


「まず条件1はプレイヤーが全員で協力するものだろう。だが条件2はプレイヤーたちの同士討ちを加速させて1の達成を阻むことになる」


「プレイヤー全員が同じ方向に足並み揃えて……なんて出来るはず無いでしょうしね」


「そして、条件3は全プレイヤーから狙われる可能性の代わりに、7万4千の中から100人――上位約0.13%は恐らく確実に入れる戦闘力が手に入る、と考える人は多いはず。つまり条件2がある時点で条件3の達成はほぼ不可能のようなものだ」


 上位0.13%に素で入ることはほぼ不可能だろう、というもとでの結論だった。

 そこでノーアが最大の問題点に気付く。


「でも条件2が達成されるとしたら、7万人以上の人が死ぬってことっすよね?! それ、不味くないっすか?」


「そうよ、不味いのよ。最悪、禁断の果実に手を出した10人が結託して残り100人になるまで殺戮……なんてことも起きうるわよ?」


「そこは人を殺すことをしない良識のある人が禁断の果実を手にすることを願おうか。……そういう人だと条件3を目指す人に殺されかねないがね」


「でもこんな状況でも殺人する人なんているっすかね?」


 ノーアのその言葉に、リサとカンナの2人は肯定も否定もせずに考え込む。

 2人は少し前、自分たちを躊躇無く殺そうとした人物メリアと会っていた。これまで会った少数の中にもそういう人物がいるのなら、プレイヤー全体にもそれなりに同じような人はいるだろう。


「7万人もいれば色んな人がいるだろう。せめてその中に悪人が少なくあることを祈るしかないな」


 リサはそう言って、カミサマの方に意識を戻す。

 カミサマは、これらの条件はメニューから確認出来ることと、明日の正午にも告知があることを知らせ、締めに入る。


「さ〜て、話すこともそろそろ無くなって来ましたけれども最後にひとつ。皆様が結託して平穏の維持に努められても困りますのでね、これまでの設定を少し弄らせていただきました。時間と天気が変動するようになって、雨などの悪天候と夜は外で出現するエンティティの個体数と強さが増加します。エンティティにやられないようにもお気をつけて〜。それではまた明日〜」


 そうしてカミサマの告知が終わり、モニターが普通の広告が表示されるようになる。

 3人は顔を見合せて、揃って口を開く。


「ひとまず夜を過ごす場所でも探そうか」


「エンティティに殺されるのは勘弁っすもんね」


「そもそも使える建物ってどのくらいあるかしらね……」


 3人の間にはこの状況で個別に動くのは危険だろうから一緒に動くべき、という共通認識があった。

 そうして3人は足早に歩き出してスクランブル交差点から離れる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る