3-7-1 ルージュとニンジャとサイボーグと騎士とギャル

「……そう」


 瑠朱はそういって腕を組んで思案した。


「なぜだ。なぜ買い物に出ることをお前の一味が禁ずるんだ」


 ガーラは訊ねた。


「それはわからないでござる。そもそも、拙者の知り合いかもわからない相手でござるからな。ただ、今までの傾向からして未来のことを知っているのは間違いないでござろう。つまり、彼らなりに未来を知っていて、その上で拙者たちの外出を封じる魂胆が見えるでござる」


「我々が外出すると何かが起こるからやめろ、ということか」


「それは違うと思うでござる。そもそも、我々が集まることに反対するなら拙者をルージュ殿に誘導する意味はないでござる。だから、単に今週末出かける先で何かが起こるから、それに巻き込まれるな、ということではござらぬかな」


 サヤギは畳に広げられた衣服を眺めながらそう言った。


「確かに、そうかもね」


 瑠朱は段ボール箱の奥からさらに一着の服を取り出した。


「あ、制服」


 ラン子が真っ先に反応した。


「制服まで買おうとは思ってなかったけど、確かにこれだけ服があれば、わたし達がわざわざ買い物に行く必要はないね」瑠朱は唸った。


「だが、逆はどうだ。この服を送り付けてくる奴らにとって、わたし達の外出が不都合だ、ということはないか」


 ガーラは言う。


「そうですね……サヤギさん、何かありましたか」


 顔をしかめ、制服をぱたぱたと叩いていたサヤギは、急に名を呼ばれ、はっと顔を上げた。


「え、ああ、そうでござるな。こうしてみると、やはり随分と、なにか気恥ずかしいものでござるな、と思っただけにござる」


 少し顔を赤らめサヤギは言った。おそらく、彼女の常識からすれば圧倒的に短いスカートのことを言っているのだろうか。今度はガーラがやれやれ、と首を振る。


「いや、確かに、送り主のことを全面的に信じるのは拙者も違和感があるでござる。だが、相手が敵ならばとうに拙者たちを抹殺するのは簡単でござろう。そうしない以上、悪いものではないと思うでござる」


 サヤギは慌てて自分の考察を述べる。


「よくわかんないけど、るっぴーとデートできないってこと?」


「それは最初から無理な相談だ。そうではなく、誰かが我々を、週末は家の中に押し込めようとしている可能性がある。それが善意なのか悪意なのかわからない、ということだ」ガーラは説明した。


「じゃあ、お出かけしようよ」


 ラン子は明快に答えた。


「なぜだ」


「楽しいから」


 三人は頭を抱えたくなる気持ちを必死で抑えた。だが、一方で真理とも感じた。そう、この問題は推測の域を出ようがないのだ。この送り主が敵か味方かなど。


「それに、ぶっちゃけみんな、強いじゃん。なんかあってもなんとかなるんじゃん」


 それにはガーラもサヤギも目を丸くした。


「確かに、千の魔物が現れようが、今日のような怪物だろうが、学校に出たあれであろうが、わたしが負ける道理はまったくない。ルージュは必ず守る」


「拙者だって戦えるでござる。忍びをなめてもらっては困るでござる」


 二人は慌てて言う。


「じゃあ平気じゃん」


 ラン子の考えは明確であった。


「それはわたしも同意見だ」


 そういって大部屋にアメノが堂々入ってくる。


「おかえりなさい。あの機械は大丈夫ですか」


 瑠朱は訊ねる。


「問題ない。なるべく目立たないところに置いてきた。夜中に取りに行く。それで、だが……何があったんだ」


 アメノは部屋に広げられた服に困惑した。


「服がたくさん届いたでござる。差出人は、おそらく拙者に服を用意した人物と同一でござる」


「お前の仲間は随分と親切だな」


「そうでござろう。これは、アメノ殿の分かと」


 そういってサヤギは箱の底から制服を一着取り出し、アメノに投げて渡した。


「これは、確かにそうみたいだな」


 広げて体に当ててみると、サイズはぴったりであった。


「つまり、差出人の意図は、我々の週末のお買い物を封じること、と考えているでござる」


「なるほど。確かにわたし達の本来の目的は贈り物で達成されてしまったということか」


 アメノはすぐに納得した。


「そして、その是非を考えているわけだな」


「その通りでござる。相手の狙いが善意か悪意か測りかねているでござる」


「なるほど。面倒だな」


 アメノはその場で腕を組んだ。


「わたしは、買い物に行った方がいいと思う」


 瑠朱は言う。


「だよね。行くよね!」ラン子が食いついた。


「多分、わたし達の外出先に何かが起こるのが決まっているのでしょう。でしたら、それを防がないといけません」


 瑠朱は決意を以てそういった。脳裏に浮かぶのは学校や、今日公園に現れた怪物であった。


「ガーラさんやアメノ、サヤギさんがいれば、被害を最小限に食い止められるはずです」


「それはそうだが……仕方ない。この国の軍隊がすぐに出られない環境である以上、もっとも安全なのは我々の傍だ」アメノは納得した。


「じゃあ決まり!」ラン子はそうまとめた。


「ただし、買い物もそうですが、それ以前に周囲の警戒を厳とします。サヤギさんやアメノには存分に働いていただき、ガーラさんにはラン子さんやキリーカさんの傍を離れず、いざとなれば周辺の人々の安全のために働いてもらいます」


「それは構わないが、ルージュはどうするつもりだ」


「わたしもそれ相応に働くつもりです」


 その言葉にサヤギ、アメノ、ガーラは不安を持った。いくら瑠朱が体力に自信あり、といっても最近の化け物相手には心もとない。だが、言って聞く相手でもないこともわかっていた。


「わかった。それでいい」


 ガーラが真っ先に同意した。牽制するように二人に視線を送る。ガーラにも、今更紅世原瑠朱が言って聞く相手ではないと理解しているのだろう。


「ふむ。わかった。だが、それより、いい加減その子の話が聞きたい」


 アメノは軍服姿の少女、キリーカを指した。


「そうですね。わたし達は道中すでに大体のお話は聞いているのですが」


 そういって瑠朱はキリーカの前で膝立ちになり、


「キリーカさん、アメノさんへぜひ、あなたのご出身や、ここに至るまでの経緯など、覚えていることを教えてください」

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