3-5-2 ルージュとニンジャとサイボーグと騎士とギャル

「完全に拙者、当て馬にされているのではござらぬか」

「お前、あの親子の間を取り持とうとしていたのか」

「別に、そういうわけではござらぬがー」

「そうやってこそこそやっているからだ。策士策に溺れる、というらしいな」

「アメノ殿こそこそこそしているではござらぬか」

 紅世原宅、屋根の上。夜、二十四時。月を背後に二つの影がいた。

「わたしはルージュの身を守る役目がある。昼の様なことにいつ巻き込まれるともわからないし、今日に限っては自称忍者なんていう奇怪なものもあらわれた。ルージュはあっさり了承しているみたいだが、わたしは違う。すべてを警戒する役目がある」

「本人を前にして随分というでござるな」

 サヤギは不満そうに言う。

「図太さはお互い様だ。盗み聞きしていたくせに、ルージュがいなくなった途端愚痴を言いに飛んで来るとはな」

「アメノ殿とは仲良くなれると思ったのでござるが、随分と警戒されているようでござるな」

「何、こうして正面から教えてやっているのは、もう取るに足らないということだ。ルージュを傷つけようとすれば即刻その減らず口を二度と叩けぬようにしてやるつもりだ」

「拙者がずっとルージュ殿に張り付いていたのにも気づけないポンコツの癖によく言うでござる」

「もう『引っかからない』から安心しろ」

 アメノは自信たっぷりにそういった。アメノ自身のサイボーグとしての性能であれば、どんなに隠れようとただの人間相手を見逃すはずがない。ただし、それはセンサーの寄せ集めである機械であれば、の話。最終的にそれを処理するのは人間の脳であり、判断するのはそれを走る思考電流だ。たとえ人影を捉えたとしても、そんなところに人がいるわけがない、見間違いだろう、という常識がセンサーの情報を『修正』してしまう。今まで彼女を補足できなかった理由はこんな感じだろう。現に、この家の中で彼女はサヤギの姿を取り逃がしたことはない。

「ふむ。まあ、確かにアメノ殿とまともに戦っては勝てないでござろうなあ」

 そういってサヤギはアメノの肩をもみだした。ため息一つついて、アメノはされるがままに、

「そういうことだ。何を考えているかはわからないが、わたしを出し抜けると思うなよ」 

 といった。

「思ってないでござるよ。ただ、ガーラ殿よりは諜報策謀向きな性格故、もっとお話ししたいと思っただけでござる」

「そうか。まあ、ガーラはあまり愚痴向きの性格ではないのは確かだろうが」

「で、ござろう。では、拙者は寝るでござる」

 サヤギは立ち上がると尻のあたりの誇りをぱんぱん、とはたいて落とした。隣のアメノは少し顔をしかめる。

「あ、そうそう。アメノ殿にお得な情報を伝えておくでござる」

「なんだ」

「さっきのラン子殿の言葉、どこまで彼女の言葉なのでござろうな」

「お前もあいつの独り言には気づいていたか」

 アメノは反射的に答えていた。サヤギが現れてから警戒レベルを上げたところ、アメノはラン子の謎の独り言を検知するに至ったのだ。

「なるほど、やはり地獄耳でござるな。くわばらくわばら」

 しまった、とアメノは反省した。自分の能力の一端を堂々と明かしてしまった。だが、今更収音能力について知られたところで痛いことはない。そう考えて気を落ち着ける。おそらく、彼女もそれが目的だろう。一瞬の動揺。

「その地獄耳に乗じて一つ質問なのでござるが、ほかにアメノ殿が気になることはござらぬか」

「気になること? どういう意味だ」

「『誰が』聞いているかわからないでござるから、こう質問するしかないでござる」

「そういうのは一か月もこの街に潜伏していたお前の方が詳しいんじゃないか」

「だからでござる。ちなみに拙者には見当もつかないでござる」

「わたしもないな。それに、何かあればわたしが誰よりも早く対処する」

「そうでござるか。それは心強いでござる。では、おやすみでござる」

 そういって彼女は今度こそ屋根から飛び降りいなくなった。

 アメノは一人頭を抱える。厄介なものが増えた。だが、自分の手に負えない範囲ではない。サヤギやガーラが何を考え実行に移そうと、わたしならルージュを守れる。

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