3-5 ルージュとニンジャとサイボーグと騎士とギャル

「あー、るっぴー見っけ」

 紅世原宅、庭。夜、二十四時。その縁側に紅世原瑠朱は腰かけていた。なにせ、無駄に広い家である。庭も縁側もなかなかの広さであった。

「隠れてはいませんよ」

 瑠朱はそう答えると、立ち上がろうとしたが、それより早く大蔵ラン子が右隣に座った。

「るっぴー、あの忍者さん嫌いでしょ」

「……そんなことありません」

「本当に? だって、ずっとなんだっけ、えっと、生徒会書記さんって呼んでたじゃん」

「本人がそう言っていたのをなぞっただけです」

 そういって瑠朱はそっぽを向いた。

「えっとね、わたしはるっぴーも忍者さんも仲良くしてほしいと思ってるんだけど」

 その言葉に瑠朱は内心驚いた。

「本当に?」

「うん。だって、そうしたら、るっぴーはお父さんとも仲良くなれると思うから」

「なんのこと?」

 瑠朱は思わず間髪入れずにそう口走った。なんだか自分が焦っているみたいに見える、そう思った瑠朱はバツが悪くなって俯いた。

「やっぱり。忍者さんがお父さんときちんとお話しできたのがもやもやしてるんでしょ」

「ちが……」瑠朱は言いかけて口ごもった。

「そうだよね、るっぴーは嘘つけないもんね」

 珍しくにやにやしながらラン子は瑠朱の顔をのぞき込む。

「つきます」

「誰かのためには、ね。だって、るっぴーは自動で、どんな人でも助けちゃうから」

「……」

「忍者さん、いい人だと思うよ。確かにお父さんに嘘ついたのは納得できないかもしれないけど、るっぴーを助けるためにしたんだから」

「……わかってます」

「じゃあ、明日ちゃんと謝ろうね。わたし、るっぴーに茶髪チビとか言われたら傷つくよ」

「そんなこと思ってないよ」

「知ってる。るっぴーはそんなこと考えないもん」

 そういってラン子は瑠朱に抱き着いた。

「さすがに暑いからやめてください」

「じゃあ、明日ちゃんと忍者さんに謝って、やぎっちって呼んであげようね」

「謝ります。でも、やぎっちはどうかと思います」

「そうかな?」

「でも、思慮を以て応対します。それでいい……否、そうしないと、よくないですね」

「そういうこと」

「じゃあ、離れてください」

「ごめん」ラン子はあっさり離れた。

 すると、瑠朱が自分のことをじっと見つめていることに気付いた。

「え、どうかした?」

「いえ、ラン子さんがそういうことを気にするとは思わなかったので」

「なんのこと? わたしはるっぴーのことが好きなだけだよ。わたしはるっぴーのためならなんでもするよ」

「そう」

 瑠朱は困惑を押し殺してそっけなく答えた。そして、ラン子に捕まる前に瑠朱はさっと立ち上がった。

「ラン子さん、ありがとう」

 瑠朱はラン子を一瞥した。ラン子の顔がぱっと晴れた。

「じゃあ、るっぴーからハグして」

「……いつも勝手にしてるでしょ」

「違うよ、るっぴーからがいい」

「しません」

「いじわる」

「別に。感謝の意は伝えました、そういうことです」

 瑠朱は意思を込めずに、なぜか高まる動悸を殺し、なるべく呼吸音に近いように言った。

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