くっころ姫騎士に洗脳美少女エージェント、催眠女子生徒などなどがいいタイミングで転送されてきてベタ惚れされたけどわたしはストレートの女の子なのでみんな元の世界に帰してあげる!
1-2 ルージュとギャルとサイボーグと騎士
1-2 ルージュとギャルとサイボーグと騎士
紅世原瑠朱の朝は早い。
毎朝五時半より布団から飛び起き、さっと着替えて顔を洗い、髪を頭の後ろでキュッと結んで外へ出る。軽くストレッチをしたのち、近所を大体三十分ほどランニングする。
時節は五月の末。桜の花はとうに散り、緑の葉を堂々伸ばす。鶯の声は聞こえぬ。ただ、連休の騒々しさが消え、漸く日常が根を張りだした雰囲気を、彼女は大いに気に入っていた。また、いつもが帰ってきた、そう思う。
帰宅後はすぐさまシャワーを浴び、着替えてから朝食と弁当の用意に取り掛かる。冷蔵庫に保存しておいた夕食の残りと弁当用の冷凍食品を解凍しつつ、並行して朝食を用意する。鮭の切り身を火にかけつつ、味噌汁はインスタントで少し手抜き。昨晩用意しておいたおかげでちょうどに炊き上がったご飯と、冷蔵庫内の総菜を添えれば『それっぽい』だろう。
「るっぴー、おはー。今日も早いねー」
「おはよう、ラン子さん。みっともないから早く着替えなさい」
いまだに寝巻代わりのジャージ姿の友達に挨拶をする。寝起き故、茶色に明るい髪色が四方伸びている。
「もー、るっぴーはせっかちなんだから」
大蔵ラン子はそういうと瑠朱の背中へ抱き着き深呼吸する。
「あー、いい匂い」
紅世原瑠朱の茶髪と、大蔵ラン子のより明るい髪色が瑠朱の背中で混じる。
「そうだね。わたしもお米が炊ける匂いは好きかな。着替えないなら盛り付け手伝って。ラン子さんの分もあるよ」
「もう無理。結婚しよう」
「ご飯欲しいだけだったらもっとお金持ち探しなさい」
「違うよ。るっぴーがいいの」
「はいはい。わたしはお父さん起こしてくるから。お父さんに会いたくないならご飯持って行って自分の部屋で食べな」
「うん。るっぴーも来てね」
「そうだね」
そういって大蔵ラン子を台所から追い出す。
父親の部屋をノックして、声をかける。寝返りの音を聞いてから一人食卓で、
「いただきます」
といって朝食を取る。その後、さっさと今ある分の洗い物をすますと洗面所へ。歯を磨いて髪を整え、学校でうるさく言われない程度にメイクをして自室へ。高校の制服に着替える。
「ラン子さん、行くよ」
「あー、るっぴーのえっち」
同居人の部屋を開けたら着替えの最中であった。それをがっつり無視し、机の上の食器を回収する。
「みっともないよ。先行くから」
「待って、すぐ行く!」
はいはい、と生返事。瑠朱は台所の流しに食器を持っていく。食卓では一人、父親が朝食をとっていた。
「おはよう」
「食べ終わったら食器は流しにおいて」
「待ちなさい。朝の挨拶ぐらいちゃんとしなさい」
台所を出ようとした瑠朱へ彼女の父、百合畑公也が言う。
「挨拶はお父さん起こした時言ったでしょ。だから朝の挨拶をちゃんとしていないのはお父さんです。お弁当はそこにおいてあるからね」
そういって瑠朱は今度こそ台所を後にしようとする、と。
「まだ話は終わっていない。最近家で泊めている子がいるだろう。あの子は一体何なんだ」
「ご両親には連絡を入れています。お仕事が忙しいのかなかなか連絡がつかないのが気がかりですが、あの子ほっとくと変なことに首を突っ込みそうだし、心配だから泊めてあげているだけです」
「でもだね」
「いいでしょ。ラン子さんは毎日お風呂掃除とお皿洗いして土日は家の掃除に庭の草取りもしてるんだから。見た目も言動もお父さんの気に障るかもしれませんが働き者です。じゃあ行ってきます」
「待ちなさい。あの泊めている子の影響か? お前はいつまで髪を染めているつもりだ。いい加減やめなさい。学校にも言われているだろう」
「これはもともと髪の色薄い子が先生に染めろって言われててかわいそうだったら抗議ついでに染めてるだけ。先生も諦めたからもうやめる」
「それから……」
「今日朝早く出るのは、小学校前の交差点の旗振りしてる北山さんが腰痛めたからその代わり。あそこ見通し悪いの知ってるでしょ」
「じゃあ……」
百合畑公也が言うことを察し、
「あと、玄関に竹刀袋があるのは今日剣道部の練習付き合うから。三年生は受験期だし、みんな大会で頑張るって言ってるから応援してあげなきゃダメでしょ」
「待ちなさい。一度、お前の態度については話し合いを……」
「いつですか」
瑠朱はきりりと父を見つめた。
「土日とか、休みの日はどうだ。お前も変なところに行かないできちんと……」
「土日は忙しいので難しいです」
「なんでだ。高校生だろう」
「土曜日はボランティアで地域の清掃に行ってきます。ゴールデンウィーク明けのゴミが目立つそうです。それと、今日は土曜日の清掃ボランティアの打ち合わせ行ってくるから帰り遅いと思う。もし帰り遅くなってたら冷凍庫のハンバーグとか食べて。解凍時間はレンジに貼ってあるからよく読んで。あと、今日は雨降るかもしれないから傘持った方がいいよ。いってきます」
まだ話は終わってないぞ、という父親の声を背中に瑠朱は玄関へ。大蔵ラン子がスマホをいじりながら待っていた。この短時間でいったいどんな魔法を使っているのだろうか、がっつりメイク済み、かつ、髪にはピンクのメッシュまで装備完了。
「おそーい。みっともないぞー」
「……」
玄関を出て、瑠朱は一度ぴたりと足を止め、振り返る。木造平屋建て、田舎の地価の安さの暴力ともいうべき瓦葺の、見た目だけならお屋敷的家である。
「ご、ごめん。るっぴー、わたし悪気があったわけじゃなくて……」急に静かになった瑠朱の様子に、ラン子の顔が青ざめる。
「違うよ」
ラン子の言葉に慌てて否定を重ねる。
「誰かが……否、ごめんね。じゃあ早く行こう」
こうして紅世原瑠朱は学校へ向かう。いまいち理解のない父親とちょっとした友人、そして人助け。それが紅世原瑠朱のすべてだった。
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