第6話 精霊カルテット ~優しい天災~

 現場はまさに悲惨だった。

 木は大量に切り倒されているが、土留めは一切されておらず既に河川に土がなだれ込み、川の水は茶色くにごっている。

 大雨が降って鉄砲水が起これば、土石流となって下流の町はひとたまりもないだろう。


 ユミは上流の少し離れた所からシルフを呼び出した。


 シルフは空中でクルクルとダンスを踊り、二体、三体と増える度に、風が舞い上がり、つむじを巻いて、やがて竜巻となった。


 ユミはシルフをどんどん追加していく。


 シフルが5体になった時には竜巻が仮置きしてあった太陽光パネルを巻き上げた。


 パネルは宙に舞い上がり、互いにぶつかりへし折れ、発電素子が粉々に砕けてしまった。


 やがて風の摩擦で竜巻は電気を帯び、雷となって保管してあった資材に落ちた。

 資材は真っ黒い煙を吐き出し燃え広がった。

 炎は切り倒して放置してあった樹皮などの木に燃え移り、一体は火の海になった。


 ユミは炎の精霊ファイを操り、火が燃え広がらないようにコントロールする。



 この頃には業者も町役場も大騒ぎしながら一斉に集まってきて、現場は大混乱になっている。


 消防車のけたたましいサイレンが聞こえてきたが、林道は狭く業者の乗ってきた車と入れ替えができず、余計に時間がかかった。


 ようやく車を入れ替え放水を初めたが、林道は狭く1台分しか入って来れない。消防隊は縦列で停めホースを伸ばして放水する。


 既にホースの水は焼け石に水でみるみる蒸発し水蒸気となり、体積が一気に増えやがて炎と竜巻は火炎旋風となった。


 放水した水は水蒸気となりみるみる上空に雨雲を作り出した。


 もちろんこれもユミの仕込みだ。

 影で水の精霊ウンディーネが大量の水を水蒸気に変えている。



 ゴゴゴゴゴゴ…ドーン!!


 火災旋風は雷を帯びて、炎と雷と高温の蒸気で、プラズマ放電を起こしそうになっている。



 火災旋風の熱であまりの熱で現場の入口にあった二階建ての現場事務所が発火して、保管してあったガソリンに引火し爆発した。



 待避ー!待避ー!


 消防車の真横が燃え始め、爆発し、消防隊も消防団も肝を冷やして手が待避する。


 それと同時にビカッ!ガラガラガラ!!ドーン!!!

 ドシャーーー!!!

 大きな雷とともに大雨が降り始め、鉄砲水が発生し土石流となって襲いかかった。


 このままでは土砂が川に流れ込んで街が壊滅すると思ったが、不思議なことにまだ残っていた立木に倒木が絡まり、簡易的な土留めとなって、土石流を受け止め勢いを殺した。


 街に向かう林道も消防車が道を塞ぐ形となっていたおかげで、土石流は林道で止まり奇跡的に町に被害は出なかった。


 消防隊も退避したおかげもあって、軽症者はでたものの誰一人、死人は出なかった。


 実際はユミが土の精霊ノームに命じて、土石流を消防車で止めたり、木を土留めのようにしたのだが。


 火事も火乙女フィアにいって燃える範囲を制限してる。


「まぁ、こんなものかしらね。」


 ユミは小高い所から、精霊に合図を送り、火炎旋風を打ち払った。


 その姿はまるで精霊を音楽の指揮を執るようだった。

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