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武装貨物線を操船していた密猟者達は、ゼリーフィッシュの密猟へ居合わせただけの漂流船が息を吹き返したのを見て、瞠目する。
さらに、きびすを返して尻尾を捲るかと思いきや、そのアルバトロス級のケイオスクラフトは、船首をこちらへ向けて来た。
あまつさえ、発砲して来たのだ。
蓮華三式――八ツ橋重工のリバルボーカノン。蓮華モデルは、連射速度に難があるが、精度はピカイチとされる機関砲だ。最新の四式は、連射速度を補おうと複列砲身に転向したものの、給弾システムに不具合があり、玄人の間では、蓮華モデルは一世代前の三式が傑作とされている。
にも関わらず、貨物船に被弾はなかった。
砲弾は、貨物船を狙ったのではない。貨物船から伸びるワイヤーを切る事で、ゼリーフィッシュの解放を目論んだのだ。
リボルバーカノンから放たれた、わずか五条ばかりの火線は、
鋼鉄のワイヤーを削り、まんまとゼリーフィッシュを解き放つ。
銛に穿たれて捕えられたゼリーフィッシュも大人しくしていたわけではない。どうにか拘束を解こうと左右上下に暴れ回っていた。当然、ワイヤーもそれに合わせて動いていたのだ。
三次元的な立体空間を有機的に動き回る、細い紐状の対象を、わずかな弾薬で捉えせしめた。相応の手練れなのは、疑いようがない。
だというのに、密猟者達は気を引き締めるのも忘れ、不届きにも自分達の獲物を奪った相手へただ怒りをぶち撒けるように、貨物船に積んだ兵装を吠えさせた。
混沌空間の航行に、世界内での航空力学は通用しない。重力圏ではないからだ。揚力を必要としない混沌の中で、翼を拘束するものは何もない。
三基のメインスラスタが推力を与え、九基のサブスラスタが姿勢を制御。
上下左右、四方八方を自由自在なマニューバで飛び回る怪鳥は、二門のMGEが張る濃密な弾幕を、いとも容易く掻い潜る。
のみならず、乱数回避機動の最中に片方の機関砲へ照準を合わせて、これを破壊。
密猟者達は、さらにいきり立ち、レーザー兵器を稼働した。
光学兵器メーカーで頭角を現し始めたアヴァロン社のレーザーカッター初期モデル、Z-01アロンダイトだ。後のZシリーズと比較して照射持続時間が短いものの、その出力はケイオスクラフトの装甲を焼き切るに充分な威力を有している。
混沌は液体だが、水と違ってレーザーの減衰効果はない。空気中などよりも余程効率よく伝達するだろう。
残り一門のMGEに加えて、照射後一秒に満たない一瞬とはいえ、灼熱の斬線を描いて迫るレーザー光。
アルバトロス級のマニューバが、軽妙の極みに達する。重力の縛りがないとはいえ、慣性の法則が働いている以上、機体の重量までは無視できないはずだ。
なのに三〇〇トン級の船が、踊るようなマニューバで飛び回っているさまは、冗談としか思えない。それも砲弾と灼光が飛び交う中でとなると、笑い話にもなるまい。
MGEにアロンダイトまで軽くあしらわれた密猟者達は、最後の切り札に手を付ける。
魔術結社“旧き炎の信徒”が組み上げたエーテル兵器、“
エーテル兵器は、機械工学や物理科学とは異なる理術、魔術原理に則って造られた第三の兵器だ。弾薬の代わりに精錬の難しいエーテル元素を必要とし、射手は魔術素養のある者に限る。
極めて扱いがたい兵器だが、それがもたらす効果も極めて異質。
“明星の篝火”は、魔術回路を組み込んだ宝珠から三重の魔法陣を投影すると共に、数えて十三条の光線を召喚する。
喚び出された、その血のように赫い十三の光は、対象に指定した船体を何処までも追跡し、燃やし尽くす。見る影もなく残骸に変えられた船はそのまま、搭乗者の墓標となるのが必定である。
エーテル駆動の誘導兵器が厄介なのは、通常のフレアやチャフ、デコイなどの欺瞞装置が一切通じないところにある。
対抗手段は、同じく魔術原理を利用したカウンターメイジャーか、あるいは――
アルバトロス級が、砲弾、レーザー、魔術光線を躱しつつ、貨物船へ肉薄する軌道を飛んだ。船体が触れ合うほどの極至近距離を飛べば、機関砲やレーザー射出器の射角から外れる。それが狙いか。
そう考えた矢先、MGEとアロンダイトが、火器管制システムの認識タグから消える。
アルバトロス級の真の狙いは、自機を追尾する魔術光線を利用して、貨物船の武装を削る事にあった。
“明星の篝火”を操作する魔術師は、アルバトロス級を葬り去ろうと躍起になるあまり、自傷を防ぐ冷静さを失っていたのだ。
こちらを翻弄して嘲笑う怪鳥の動きは、怒りを煽るため計算され尽くしたものだった。そう顧みるだけの脳みそが密猟者達にあるはずもなく、武装がエーテル兵器一つを残すのみとなってもなお怒りは冷めやらず、ますます熱を注ぐ。
反面、アルバトロス級はこれまでの振る舞いとは一転して、その機動を停止した。いや、正確に述べるなら、貨物船との相対速度がゼロになるように減速し、軌道を調整した。
熱狂する密猟者達は知るよしもない。アルバトロス級――ノラウェイダの推進剤が底を突いた事を。
「こっちは空欠だ」
「充分だ」
“明星の篝火”が制御する十三の、血よりも赫い光の筋がノラウェイダを焼き尽くそうと殺到する中、リボルバーカノンが火を吹く。
次の瞬間、十三の光はノラウェイダへ届く寸前に、霧散した。
リボルバーカノンが放った都合三発の砲弾は、狙いあやまたずにエーテル兵器の中枢に据えられた宝珠を砕き、魔術回路を破壊したのだ。
貨物船の操舵室で、破壊された魔術回路からフィードバックを受けた魔術師が、泡を吹いて気絶する。だが、他の密猟者達に仲間を気遣う余裕などなかった。
『さあて、おとなしくしな』
『無駄な抵抗はよせ』
リボルバーカノンの砲口が、密猟者達を釘付けにする。
『俺達は――』
『――
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