Marionette -マリオネット-

それから、目が覚めて、自分が人間になっていることに気づき、窓から飛び出し、ひたすら走って逃げた。


今自分がどこを走っているのかまったくわからない。


この地域は縄張りの外だから来たことがない。


いつものように塀に登ろうとしたが、体が重く飛び上がることができない。


仕方なく歩道を走る。


人間とすれ違うと、奴らはなぜか俺のことをじろじろと見た。


すぐにそれは景色として後ろに流れていくが、それでも人間の女が、甲高い叫び声を上げているのがわかった。


周囲に人間が増えてきて、初めて自分がいつもの商店街にいることに気づいた。


人間を避けていつもの道を通ろうとするが、人間の身体では通れない。


自転車の脇を通ろうとしたら、大きな音を立てて自転車の列が倒れた。


逃げようとするが、人間たちが集まってくるので、できなかった。


まずい、人間に捕まってしまう。


あちこちから、人間の声が聞こえてきた。


「え、裸の男? まじ? うわっほんとだ」

「見ちゃだめよ、ほら早く来なさい」

「病院から逃げ出してきたのかしら?」

「やべぇ! ターミネーターじゃん」


人間たちの声が、頭のなかをぐるぐると駆け巡る。


気づくと、四方を人間たちが囲っていた。


人間たちは、じろじろと不躾に俺の体を眺め回し、ひそひそと何事かを話していた。


「おい兄ちゃん、素っ裸でどうしたんだ?」


一人の男が、そう言って俺の肩をつかんだ。


やめろ! 

俺は男の手を払い、威嚇した。


女の叫び声と、男の怒号が飛び交う。


誰かが「捕まえろ!」と喚く。


逃げ出そうとしたとき、後ろから声が聞こえた。



「やっと見つけたわよ」


数ある人間たちの声のなかで、それは確かに聞き取れた。


そして同時にその声は、俺を心底震えさせた。


氷みたいな空気が背中に突き刺さる。


ゆっくりと振り返る。


そこには、サラが立っていた。


反射的に身体が逃げようとするが、サラは素早く手に持った木の棒を俺の額に、ちょんと当てた。


その瞬間、身体から力が抜ける。


見えているものが、俺を囲う人間たちの姿から暗くなった空へと変わった。


「ああ、俺は今仰向けに倒れている最中だな」と、ひどく冷静に自分に起こっていることを考えていた。


背面に衝撃を感じて、自分が完全に倒れたことを認識する。


人間たちが不思議そうに俺の顔を覗き込んでいるのが見えた。


同時に、意識が遠のいていく。


ああ、そうかこれは夢なのか。


ここで眠ることは、現実世界で起きることを意味している。


だから、早く眠ろう。


そしたらすべて元通りだ。



俺はそっと目を閉じた。

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