第2話 家出

「セナ、よく聞くんだ。お前ももう12歳になった。

パパが恋しいのはわかるが成人する15歳になるまでには

結婚相手を探さなければならない。どうだろうパパの知り合いの息子で

なかなかいい奴がいるんだ。もちろんセナの可愛さとはまるで釣り合っていないが

貴族の次男坊でそこそこ金もあるし、話てみると学もありそうだった。

正直セナちゃんをあんな男にくれてやるのは癪だが、それもまた父親としての使命。

それに嫌になったらすぐに帰ってきてもいい。その方がパパも安心だしママも喜ぶ。

だからセナちゃん。一度でいいから挨拶にいっt

「ファイアー!」

言葉が発されると同時に、伸ばされた小さな手に魔力が集まり

火の玉となって対象である顔面へと襲いかかる。

「あづぅ!!」

火の玉は見事にクリーンヒット。よほど熱いのだろう、椅子から転げ落ち顔に燃え広がった火を消そうと床に擦り付けている。

それを横目にきびすを返し父の書斎のドアをあけ廊下へと向かう。

「待って!セナちゃん話はまだ・

「うるさい!キモい!ジジィ!!」

力任せにしめたドアからはバタンと大きな音が鳴った。

「あ”あ”〜ほんとにもう!!」

要するに最近お父さんがやたらと進めてくる縁談の話だった。

少しでも真面目な話かと考えた自分に腹が立つ。

縁談を何度も進められるということもかなりストレスだが

この頃お父さんが喋りかけてくる。ということ自体にイライラしている気がする。

ベタベタしてきたりおせっかいを焼いてきたり前まではなんとも思わなかったが

今思うとかなり気持ちが悪い。

洗濯を一緒にされるのもなんだか臭いがうつるような気がするので

メイドには分けて洗うようにしてもらった。

自分の部屋に戻ってふかふかとは言い難いベットへとダイブをする。

お父さんが見ていたらはしたないとでもいうのだろうが

去年から占領したこの部屋では

誰も怒ることはない。

深いため息と同時にこれからのことを考える。

「どうしようかな・・・」


私は交易によって発展したこの町の大商人の一人娘として生まれた。

魔王軍やモンスターに怯え飢えや戦いの溢れるこの世界でも少なくとも

明日のご飯に困ることのない生活を送っている。

男として生まれていたならお父さんに商人としての交渉術を叩き込まれるか

良いところで働くために学校へ行かされて勉強をするか

冒険者?モンスター討伐者として鍛えるか何かしたのだろうが

一人娘として生まれたので特に何かさせられるわけでもなく

良いとこへ嫁ぐまでただ可愛がられるという人生を送ってきた。

そういう意味では家を追い出され放浪していたり、集会所で何か依頼をこなすわけでもなく集まって酒を飲んでぐうたらしている他の転生者と同じような状態だ。

10歳になった頃本を読んでマジックを覚えて一度だけモンスター退治に行ってみたことがあった。豚みたいなのモンスターと戦ってみたのだが1発目のマジックを当てたのに倒れなかったので2発目のマジックを打とうとした時にに突進されて吹っ飛んだ。ものすごい衝撃が体を襲い地面を転がった。そこからは半泣きになりながら擦りむいた足で家に帰った。

お父さんには心配されたがお母さんにはものすごく叱られた。

それからモンスター狩りは禁止されていけなくなってしまった。

今ならもっと上手くできるとは思っているけどメイドの見張られているので

自由に外出することすらできない。外に出ようと思ったらメイドが必ずついてくる。

たまには一人で買い物に行ってみたいと思っているのに

大商人の娘なので誘拐される危険性もあると言われてしまって何も言い返せずにいる。とても窮屈な日々だ。

この世界には職業レベルとスキルレベルというものがあるがそれは実際に何度も

使わないと上がることはない。

詳しくいうと職業レベルは100までありスキルレベルは5まである。

職業レベルは商人なら商売をするとレベルが上がるし

商人系のスキルを手に入れられる。戦士なら戦うことでレベルが上がって戦士系のスキルを手に入れられる。スキルレベルは特定の行動をすることで上げることができる。要するに職業はステータスでスキルはワザだ。

スキルには固有スキルと汎用スキル、種族スキル、職業スキルがある。

そしてそれらスキルにはレア度?があり上から”唯一” ”最強” "超レア" ”レア” ”コモン”の全部で5つ。固有スキルは”唯一”と同じ意味だ。それが使えるスキルかどうかはわからないがそもそも固有スキルを保有している人がいないのでかなり珍しい。

そんなかなり珍しい固有スキル。実は私は一つ持っている。

この世界に来る時、どうやら転生者にはスキルがいくつかもらえるらしい。

私は固有スキル一つと汎用スキルを3つもらった。

もらえるスキルは人それぞれなのでもらったスキルの数やレア度でマウントを取り合っているNEETたちをよく見かける。自分から話すか特定の場所じゃないと他人からは見えないので言ったもん勝ちみたいなとこではあるが・・・

自分からはよくあるポップアップのように自分のステータスを見ることはできる。

他人のを直接みたいなら相手の腕を握ってOKを貰えば見ることができる。

もらった固有スキルは混合。一度も使ったことがない。どうやったら使えるのかもよくわかっていない。

他にもいくつか習得したスキルがあるのでそれを使って鍛えてみたいが

両親に反対されているのでいい機会がない。

勉強で戦闘系スキルは上がらない。今上がっているのは商人系のスキルだけだ。

やっぱり外へ出て仲間を集めてとモンスターと戦ったりしてみたい。

もらったお金でショッピングをしてみたい。

いろんな町や国を見てみたい。

そんな思いが胸を馳せる。

窓がからは賑やかに買い物を楽しんだりする人やこれから討伐へと出かける冒険者たちが行き来するのが見える。グータラ酔っ払いNEETたちが警備兵に道の端へと引きづられているのも見えるがそれは無視だ。

交易が主な町なのでモンスター退治が重要なので冒険者たちの仕事は多いし

町人たちの仕事も事欠かないので決して裕福な暮らしではないがみんな楽しそうだ。

「はぁ」

ため息が漏れる。

その時ある考えが湧いた。

窓から出れる!!

2階の部屋なので怖いがギリギリ降りられないこともない。

タンスをあけ服を漁る。10歳の時に着た冒険用の装備もまだ残っている。

素朴な皮の防具だがちゃんと着れる。胸のプレートぐらいはキツくて入らないかと思ったが余裕だった。喜ぶべきか泣くべきなのか・・・

靴紐を結び窓へと足をかける。

「ふぅ」

案外高い。

「えい!   ぶへぇ」

変な声を出しながら降りてしまったのもあってか行き交う人たちからは注目されてしまった。

「大丈夫大丈夫」

自分を励ましながら立ち上がる。

まず向かうのはいとこの家だ。

前モンスター退治に行った時も一緒に行ったので今回もついてきてくれるだろう。

久しぶりに自由に外に出られたという高揚感とモンスターとの戦いへの期待で

この後自分が怒られるということを忘れてウキウキで街へと走り出した。

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