元嫁からの手紙・中編
翌週の日曜日。
再び元嫁のここあから手紙が届いた。
【拝啓・春乃宮満重様。
水曜日は申し訳ありませんでした。
私から約束したのにレストランに行けませんでした】
あら、そうなの?
俺も行ってないから知らなかった。
当日は家で俺特製さっぱりレモンが香るとアスパラとベーコンのパスタ。
ミネストローネは妻の紬が作ってくれた。
外食もいいが、家族で食べる夕食が一番である。
【きっと、あなたは私に会えず涙を流していたことでしょう。
だって、私も同じだから。
あなたと過ごした幸せな結婚生活を今も私は忘れていません】
俺も忘れていないよ。
お前と上司と同僚と後輩と役員とお局様でやった、究極6Pダイナマイト・セックス・スペシャルと名付けられたハメ取り動画を。
あれのせいで、しばらく女性不信だった。
そこから立ち直らせてくれた妻の紬には感謝しかない。
【実は、水曜日行けなかったのは理由があるのです。
というよりも、本当は行きました。
でもあなたと再会するより早く、私は連れ去られてしまったのです。
…………異世界ネトランドに】
………………………うん?
【異世界ネトランドは、紅蓮魔王フティウ・ワーキに支配された、荒廃した世界でした。
そのため、異世界から魔王を倒すための“聖なる者”を召喚していた。
そして選ばれたのが私だったそうです】
お前はどう考えても性なる者だけどな?
【召喚された私は、何故か幼い姿をしていました。
というよりも薄緑の髪をした、エルフのような姿になっていたのです。
あなたが大好きだった大きな胸もぺったんこになってしまいました。
どうやらネトランドに召喚される際・特殊な才能を与えられると同時に、この世界に適応した姿に変わってしまうようです。
あなたが愛してくれた私がいなくなってしまったような、虚無感に襲われてしまいました。
ただ幼くなった影響か、処女に戻っていましたよ】
奇遇だな。
俺も十年前の不倫で。俺の愛したお前がいなくなった酷い虚無感に襲われたよ。
【ともかく、私が元の世界に戻るためには、紅蓮魔王フティウ・ワーキを倒さねばなりません。
きっと急にいなくなった私をあなたは心配しているでしょう。
でも大丈夫です。私はあなたの元に戻ってみせます。
その時には二人で股、愛を交わし幸せな日々を送りましょう。社長夫人ここあ、こうご期待です。
だから信じて待っていてください。
ちなみにここではロリエルフの魔導士、ココア・ウェールレーギアを名乗っています。
ウェールは春、レーギアは宮殿を意味します。
遠く離れた異世界でも、あなたを傍に感じたいと思って付けた名前です】
もうね、“二人でまた”を“二人で股”に誤字る時点でお前の人間性が信じられねーんだよ。
【私は魔王を倒すべく、仲間を募りました。
おかげで軽装勇者チャッラ、筋肉戦士ネトゴリー、薬学に長けた錬金術師スイミ・カーンという心強い男性たちを味方にすることが出来ました。
私は、今度こそあなたを裏切らない。
彼らと必ず紅蓮魔王フティウ・ワーキを倒し、あなたと再び結婚してみせます】
ほーん、もうどーでもいいけど。(鼻ホジホジ
【では、折を見てこちらの経過を送ります。
PS.まだ慰謝料が支払い終えていないため、肩代わりしてくれると嬉しいです】
それはどうでもよくねーよ。
絶対払わない。
「元奥さん……大丈夫?」
「元から大丈夫でないと言えばそうなので大丈夫だと思う」
ちなみに隣で紬も内容を確認していたので、元嫁のここあを心配していた。
主に頭の。
完全に精神がやられちゃってる内容だからね。
俺はびりびりに手紙を破いてゴミ箱に捨てる。
そうして窓の外に広がる空を見上げた。
「俺は、紬を愛しているよ。でも、元嫁ではあるからな。あいつが、遠いところで元気でやってるならそれでいいと思う」
俺は今、本当に幸せだから。
異世界の空の下、もう二度と帰ってくんじゃねーぞクソ不倫嫁。
◆
そして次の日曜日、更に手紙が届いた。
【拝啓・春乃宮満重様。
お元気ですか、あなた。
遠い異世界ではあなたに贈るこの手紙だけが私の支えです。
私達のパーティは男・男・男・女。ロリエルフになってしまった私ですが、女しかできない仕事も色々あるので負担は大きいです。
この前は酒場でマイクロビキニ・バニーガールになってお酌をしました。
つるぺたなのに皆いろんなところを食い入るように見てきて……。
うふふ、嫉妬しました?
大丈夫ですよ、あなた以外に靡いたりはしませんから】
これほど白々しい言葉ってある?
【でも紅蓮魔城ダイングライフまでの道のりは厳しいです。
フェブナ族が創り出した結界を通り抜けるには牙獣ゴルガス倒せねばならず、私達は相当苦戦しました。
でもどうにか倒し、次に進もうとした時に、ヤツは現れたのです。
そう、暗黒魔闘士デス・クラッシャーが】
ふーん。
【暗黒魔闘士デス・クラッシャーはオーラと魔力を同時に操り、合成することで尋常ではない力を産み出す異世界ネトランドでも五指に入る戦闘者です。
あの男の魔闘技ダークバーストに耐えられる人間なんて存在しません。
軽装勇者チャッラも、筋肉戦士ネトゴリーも、魔闘技どころかただの蹴りと拳で倒されてしまいました。
錬金術師スイミ・カーンは違法媚薬売買の罪で捕まりました。
パーティーは私一人になってしまいました。
デス・クラッシャーは言います。
『美しい貧乳の娘よ。残されたのは貴様のみだ。我の手で、その薄い胸のみを責め体と心を墜としてやろう』
ロリコンです。
どんなに気取って言ってもツルペタ好きのロリコンクソ野郎です。
でも、私は毅然と断りました。
この身は、愛する満重さんだけのもの。誰がお前なんかに体を許すモノか。
春乃宮の社長夫人を舐めるなと言い切ってやりました。
デス・クラッシャーは答えました。
『我が舐めるのは腋のみだ』
クソだなこいつ】
お前は俺を舐めてるけどな?
そもそもお前、四人の男と一人の女に散々体許してるじゃねーか。
【そうして私は決闘する運びと相成りました。
満重さん、私は必ず勝ちます。
愛は何物にも負けないと、私こそが社長夫人に相応しいと証明してみせます。
だからどうか、遠い異世界にいる私の無事を、祈っていてください】
俺は手紙を捨てた。
「パパー、今度ねー。リコーダーのテストがあるんだぁ」
「そっかあ。うまくいくように祈ってるよ」
「うん、お願いねっ」
俺の祈りもう予約一杯だわ。
◆
日曜日、また手紙が届いた。
【はぁああああああああああああああああん♡
満重さん♡ 満重さん♡ あああんみちしげさぁぁぁああん♡
愛しい満重さぁん♡ おはよーのキスしましょ♡ ちゅ♡
私と満重さんは雌雄同体♡ くっついてずっとずっとずっと離れられない愛の接着剤で結ばれたラブ&ピースなのぉぉぉ♡
満重さんの腕に抱かれて朝目覚めてぇ♡ そのままお昼までイチャイチャしてぇ♡
ちゅ♡ ちゅ♡ ちゅぅぅぅん♡
私の心がもえもえきゅん♡
あれ? でもいない? なんで?
いやああああああああああああああああああああああああああああああ!?
満重さんいないの!? なんでなんで!?
ああああああ、これも異世界に呼び出されたせいぃぃぃっ!?
なによ、あのクソ聖女!?
私と満重さんの仲を裂いて! 浮気!? 浮気なのね!?
うわ、き………違う!? 私は浮気なんてしてない!?
私が愛しているのは満重さんだけ! 他は全部遊びなの!
いやだぁあああああああ異世界のせいで!? 異世界が私達の愛を引き裂かなければぁぁぁぁぁぁ!?
とどけ! とっどいてよ!
私の愛! 世界の壁を越えて届けええええええええええええええええ!?!?!?!?
あ、みちしげくんだぁ……♡
小学校いっしょにいこー♡
あのねあのね、ここあちゃんね♡
みちしげくんのおよめさんになるのぉ♡】
俺は手紙をびりびりに破いて捨てた。
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