第13話 これが彼岸神楽流!!

 消えた同期生、小鳥遊夢を追い僕は『頼ろう会』へ入信する。狙うは教祖、骨原の髪の毛!!

 着々と剣術家としての腕を磨きつつ芸能レッスンがおざなり子になり始めた雨宮小春は無事、日比谷真紀奈と再会できるのか!?

 初恋芸能ミステリー剣術ドラマ--雨宮血風伝!!


 ……こんにちは。雨宮小春です。



「--今回潜入にあたってこちらから接触すると怪しまれる可能性があるから、『頼ろう会』が再び坊主の所に勧誘に来るのを待つ」


 ……と、双子探偵の妹、浅野美夜さんから指示されまして。

 こうしてずっっっと息を殺して期を伺っておりました。えぇ。


 そうしましたらついに!

 なんと僕の入門した彼岸神楽流の道場の方に『頼ろう会』の信者が新じゃが持って現れたみたいです。


 僕は双子探偵と連絡を取って道場に向かいます。


「待て」


 そこで水を差してきたのは電話の会話を聞いてたらしいこの男--俺の名前は風見大和bot君…

 僕と小鳥遊夢の同期生。歌舞伎役者の息子にしてヤマンバギャル否定派筆頭。


 彼は厳つい顔で僕を睨みつけていた。


「どこへ行く?まだ午後のレッスンが残っているぞ?」

「いや、用事が……」

「用事というのは道場に通うことだったのか?」


 な、なにをそんなに怒ってるんですか…?


 顔色を伺うまでもなく不愉快そうな俺の名前は風見大和bot君。なんか、ゴミ虫でも見るかのような軽蔑の眼差し…


「お前……俳優は諦めて格闘チャンプにでもなるの?」

「いやいや…違うけど……ほら。うちの小学校、格闘技が必修科目だから……」

「意味がわからん」


 なん……だと?我が両親はこれで納得したのに……


「必修科目で習うならわざわざ道場行かなくていーじゃん」

「…俺の名前は風見大和bot君……君頭いいんだね。流石國園友三郎の息子…」

「待て貴様……俺の名前は風見大和だ」

「まぁそういう訳でして……文武両道を目指す僕はとっても忙しいのでござるよ」

「…………それはレッスンより優先されるのか?そうか…お前の気持ちはその程度だったのか……」


 顔を見れば分かる。怒ってる。

 ただ……


 大人達が僕らに向けてくる上手く出来なかった時の目とは違う…そう……これは……


 --なんだかとっても寂しそうな目だ。


 同級生で東京に引っ越した子が居た。

 引っ越し前日、クラスのお友達がみんなそんな顔してたよ……


 僕は俺の名前は風見大和bot君の感情の揺らぎに動揺した。


「…………お前は役者にはなれない。断言する」

「……俺の名前は風見大和bot君…」

「厳格な歌舞伎業界を見てきた俺だから言える……小春…お前には才能があった。が、気持ちが足りてない…」


 あ、才能ある感じですか?やっぱり?照れちゃう♡


「お前はなんの為に役者を目指す…」


 ……うーん。別に役者を目指していた訳では無いんですが……


「俺は先に進む……お前とはお別れだ小春」

「……あっ」


 くるりと背を向けて歩き去っていく俺の名前は風見大和bot君。その背中はなぜか僕よりも一回り大きく見えた。

 彼は僕を認めてくれていた……

 その期待との決別……


 僕は思わず彼の背中に駆け寄ろうとした。けれど後ろ髪を引く電話口の声と、夕焼けに溶けていく小鳥遊夢の背中がそれを止めた。


 僕の夢と一緒に俺の名前は風見大和bot君が遠ざかっていくようだった…


「…………ごめん。行かなきゃ…」


 *******************


 とても小3っぽくない決別を経て、彼岸神楽流道場へ--

 行かなきゃとは言いましたが……


「なぜ来なきゃならなかったんでしょうか?」

「そりゃ進展があったからだろ」

「レッスン、頑張ってる?」


 双子探偵、浅野美夜(妹)と詩音(姉)。そして対面に座するは我が師、彼岸神楽師範。


 間に挟むは新じゃが。


「今更ですけど僕、どうして小鳥遊さんの為にこんな事を……?」

「あ?友達だからだろーが」

「どうしたの小春君。私達は君の友達を想うその心根に心を打たれたんだよ?消火器で…」

「でも……僕らそんなに親しくない……」

「舐めてんのか?(怒)」


 ……ホントになんでだっけ?

 どうして僕の頭から、あの日の夕方の小鳥遊夢が離れないんでしたっけ?


 危うく双子探偵(妹)から消火器で殴られそうになったところで、我が師範から銀閃が飛ぶ。首元にピタリと沿う太刀におしっこチビりかけました。


「……迷いがありますね。小春」

「神楽師範…」

「迷いは命取り……今あなたは己が使命と自らの意思に揺れている……」

「そうなのか?」「小3で?」

「迷いは捨てなさい。どちらを選ぶにしろ、選択するのは自分…自分の選択に自信を持つ為には、全力でやりきる事……他にはありません」

「厳しいな神楽」「小3だよ?」

「後悔も葛藤も後でいい……」


 師範……刀を僕に向ける意味、ありますか?



 --『頼ろう会』は道場に僕ん家に来た時と同じ書類を置いて帰った。そして新じゃが。


 新じゃがの時期は地方によって違うので年に何度も新じゃがの美味さを味わえる。


「肉じゃがでございます」


 彼は彼岸神楽流三段、大林。超一流の肉じゃがリストである。


「おいこれ芽取ってねーぞ!?(怒)」


 美夜さんの怒号と共にぬるっと始まる作戦会議。肉じゃがには芽が残っていた。


「予定通り、私と小春で『頼ろう会』へ潜入します。話を聞くに、今週日曜日に『頼ろう会』の体験入信会があるそうです。そこには教祖骨原も出てくるらしい…」

「なるほど……いきなり入信するのではなくまずは体験入信するって事だね?」

「そこで骨原がヅラか地毛か確かめる…ヅラならインチキ宗教、地毛からマジで神様が復活したってことになる…」


『頼ろう会』は以前、本物の土地神を信仰対象として活動してたんだって。神の奇跡は髪も生やせるらしい。


 僕は問う。


「……もし、本当に神様が居たら…?」

「……」「……」

「--小春」


 その時、我が師範が厳かに口を開いた。


「彼岸神楽流の剣は全ての理を捉える…例え神だろうと、我が剣に捉えられぬモノはありません……」


 斬るつもりだ。


「小春…来る決戦に備え、あなたに我が彼岸神楽流の奥義を伝承します」

「えっ!?まだ入門してひと月くらいしか経ってないのに!?」


「……姉さん、神楽ってこんなキャラだっけ?」「こんなキャラだよ?」


 *******************


 セミが元気に鳴く7月の山…その中に居を構える彼岸神楽流総本山。

 道場から少し離れた場所にある倉に連れてこられた僕は師範と共にそこに入る。


 --物置のような倉の中には埃を被った大太刀が一振り…


 それは立てたら師範と同じくらいの高さがありそうな立派な太刀だった。


 そしてその後ろの壁には、なんか浮世絵風の絵柄で2人の剣士が刃を交えてる。

 その頭上には巨大な狐が……


「……師範?これは?」

「我が彼岸神楽流の真髄がここにある」


 らしい。


 師範は倉の中に入り大太刀の鞘にゆっくり指を這わせる。まるで過去を懐かしむように……


「……これはかつて私が使っていた刀。私が戦いの日々の中で共に多くを斬った刀です。ここには私の全てが詰まっている…」

「……はぁ」

「この壁に記されているのは彼岸神楽流の戦いの歴史……その記録……」

「……戦いの……記録…………」

「この戦ってる男女は私と、私の兄、彼岸三途」

「え?師範なんですか?」

「我が兄三途は当時、日本最大の暴力団、関西煉獄会かんさいれんごくかいに所属していて、この街で殺戮の限りを尽くしてた……」


 ……………………

 関西煉獄会って確か一昨年くらいにこの街で暴れてたヤクザさんだよね?


「そしてこの狐は白面金毛九尾の狐…」

「はくめんきんもー?」

「かつてこの街を襲った大災害…台風6号…観測史上最強とされたあの台風はこの街に留まり、大きな爪痕を残した」


 確か母さんが買い物行ってロースカロライナまで吹き飛ばされた台風だよね?


「あれを起こしたのが九尾の狐……」


 あれも一昨年とかだよね?

 なんだよ。壁の絵柄とか古そうな離れとかもっと歴史を感じさせるエピソードを期待したのに全部最近の話じゃん。

 って思ったけどそもそも彼岸神楽流がまだ出来て2、3年の流派だった。


 しかし……


「……それらを打ち倒したのが…もしかして師範……?」


 だとしたら英雄じゃないですか!!


「……いいえ、三途は佐伯達也という剣士が。九尾の狐は天使によって天界へ連れていかれました。私は勝ってません」


 ちげーのかよ。


 師範は埃を被った大太刀を持ち上げてゆっくり鞘から引き抜いた。薄暗い倉の中で鈍色の光を放つ刀からは歴史の重みを感じる…

 一昨年分までの……


「ですが、その戦いの中で私は彼岸神楽流を立ち上げるまでに強くなった……あの戦いの記憶の中には、この彼岸神楽流の全てが詰まっています……小春、今からあなたにその彼岸神楽流の全てを伝えましょう」

「全てを伝えてもらったらもう道場来なくていいですか?」

「なりません」


 ならなかった。


 なぜか唐突に始まる奥義伝承。これは今まで彼岸神楽流で汗を流してきた兄弟子達も黙っちゃいないよ?

 もしかして入門1ヶ月ちょっとで奥義伝承されるくらい僕には才能が……?


 芸能界と剣術家としての道……どちらの才能を取るかでちょっと揺れる僕の前で神楽師範が構える。


「……神を斬ろうというのです。奥義のひとつやふたつやみっつは……」

「ひとつやふたつやみっつあるんですか?奥義……」

「今回伝承するのは彼岸神楽流奥義108の内、全ての基礎となる第1奥義……」

「多すぎません?」

「小春…あなたには死に際の集中力をものにしてもらいます」


 僕のツッコミなど木の葉のように吹き飛ばし、神楽師範は目を煌々と光らせながらゆっくりと半歩迫ってきた。

 もちろんその切っ先は僕にロックオン……


 嫌な予感がした。


「避けなさい小春。でなければ--死あるのみ」


 とてもとても、嫌な予感がした。

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