第11話 地毛なのか…ヅラなのか…

 こんなに熱い漢が居るか!?

 どうも、全然親しいわけでもないけど芸能養成所の消えた同期が心配で探偵事務所に乗り込む小学生、雨宮小春です。



 --『頼ろう会』

 最近信者を続々増殖中かつ水虫ごと信者を消してしまうと話題沸騰中のお湯を湧かせそうな新興宗教である。

 消えた小鳥遊夢の母親はこの『頼ろう会』の信者だった可能性が大。

 つまり『頼ろう会』がクロである可能性は特大。

 本日卵が特売。


 日比谷真紀奈との再会夢見て芸能界を目指すという趣旨のはずの僕のサクセスストーリーは只今から探偵ものになります。

 物語の趣旨が変わりますが最後までお付き合いください。



 --と、言うことで。

 僕は今、『浅野探偵事務所』なる364円に異常な執着を見せる双子探偵の下に居る。

 浅野詩音と浅野美夜の美女探偵姉妹と共に小鳥遊夢を取り戻す為僕達は『頼ろう会』を叩く!多分……


「--何言ってるの?危険だよ」


『頼ろう会』の化けの皮を剥ぐには内部調査が必要……

 しかし浅野姉妹は過去に『頼ろう会』と因縁があるみたい。代表、骨原に顔を覚えられてる彼女達の潜入は不可能。


 そこで名乗りを挙げたのは依頼者である僕だった。

 僕にだって良心がある。今回タダで仕事を受けてもらったのだから、これくらいは手伝いたい……


 しかし返ってきたのは美夜さんからの消火器による却下。


 ゴンッ!!


「ぐはっ!?……フリークス…………」

「美夜!?どうして殴るの!?」

「馬鹿かお前は……坊主。お前は依頼人…探偵が依頼人--」


 ゴンッ!!


「痛ってぇなぁ!?フリークス!!(怒)」

「子供殴るなんて信じられません!!お姉ちゃん怒です!!才能の全てを投げ打って美夜を倒せる年齢レベルまで成長しそう!!」

「……殺されるのが……ボクで……良かっ……た……」

「美夜?馬鹿な事ばっかりやってないの」


 消火器で小学生を殴打という事件発生現場でいつも慈母のような微笑みを絶やさない詩音お姉ちゃんが僕を諭す。


「あなたにそんな危険な事はさせないよ?君のお友達は私達が必ず助ける……だから--」

「僕だって男だもん!!」

「……ボク?」

「小鳥遊さんを助けたい!!」


 嘘である。いや、叫ぶほど熱くなってないという意味で嘘なのであるが……

 こうまでして調査に参加しようとする理由。


 まずは「この人達で大丈夫かな?」って不安が拭えないこと。

 2つ目は『頼ろう会』が気になる。特に、浅野姉妹から飛び出した意味不明なやり取り…彼女らと『頼ろう会』の因縁に興味津々。


 3つ目……これに関しては自分でも確信は持てないけれど……

 なんだか自分が役に立つ気がする。それに、子役志望としてこの調査に乗り出すことは大きなスキルアップに繋がるような予感があった。


 僕の中には今、トム・クルーズのミッションインポッシブルのようなイメージが広がっていたんだ。

 もしくはダニエル・クレイグの007か……


 余談だけど、007の腕時計と言えばオメガのシーマスターだけど、原作小説ではロレックスのサブマリーナなんだって。


 とにかく、潜入調査というワードは小学3年生には刺激が強すぎた。


「……ボク」

「坊主……」

「……教えてよ……『頼ろう会』…骨原さんの事。2人と『頼ろう会』に何があったの?」


 ……なんて自然な流れで過去編に突入!!


 *******************


「……私らが『校内保守警備同好会』を名乗ってたのは高校生の頃の話……」


 ……?

『こうないほしゅけーびどーこーかい』とは何ですか?


 重たい口を開いて記憶を辿り、過去へ視線を向けた美夜さんの口からまず飛び出した謎ワードは早速僕を混乱させた。


「私達の高校にはたくさんの同好会があってね?その中のひとつが『校内保守警備同好会』…学校と生徒の安全を守る同好会だったんだ」


 お茶のおかわりをくれる詩音さんが補足説明してくれた。へー、高校ってすごいなぁ……


「……あれは2年生の頃、体育祭が終わった直後だった…私ら校内保守警備同好会の下に生徒が行方不明になるって事件が舞い込んできた」

「……今とおんなじですね」

「その時、行方不明になった生徒達がとある同好会に所属してた生徒ばかりだった……」

「まさか……」

「そうだ……その同好会こそが……『頼ろう会』」※


 今のまんまじゃん。そりゃ浅野姉妹も一発で確信するわ。


「代表は当時3年生、骨原……『頼ろう会』とはこの街の土地神を信仰し、神様に頼れば大体なんとかなるを教えに活動してた同好会だった」

「……?あの、同好会ですよね?」

「同好会だ」「同好会だよ。当時はね…」


 宗教団体じゃん。

 てか、今のまんまじゃん。

 なにも変化してないじゃん。


「私らは校内保守警備同好会としてその同好会の調査に乗り出した。具体的には潜入調査…同好会へ参加するという体で『頼ろう会』に潜入したんだ」

「そこで私と美夜の見たものはまさに奇跡だった……」


 え?奇跡見たの?


「同好会代表の骨原は私らの前で次々に神の御業とやらを見せつけたんだよ…私はともかく、この馬鹿姉さんや同僚は完全にその奇跡を信じ込んでた」

「美夜だって信じてたよ。八割くらい…」

「信じてない」

「信じてた」

「信じてねぇ!」

「いーえ、信じました。ほぼ、信じてました。完全に手の内でした」

「あの……話の続きは…?」

「おほん!……とにかくだ。『頼ろう会』の信仰する神様とやらは本物だった」


 気を取り直した美夜さんの説明を僕はにわかには受け入れられなかった。

 彼女は言った。胡散臭い宗教団体の言う神は実在したんだって……


「…………『頼ろう会』設立のキッカケは代表の骨原が神様と邂逅した事…奴は生来のつるっパゲだったらしい」


 ……だからヅラなのか地毛なのかとか言ってたんだ…


「だが、骨原は神の奇跡で髪を手に入れた」

「そこから骨原さんは神様に魅入られて『頼ろう会』を設立したの…」

「結論から言うと、行方不明者はやはり『頼ろう会』に消されてた。消された信者は神様に願いを叶えてもらう代償として神様の生贄にされてた」


 …い、生贄……


 カルト宗教の生贄という不穏すぎるワードに背筋が凍った。まさか…高校内でそんな血生臭い事件が……?

 じゃあ、小鳥遊さんは…………


「神様に吸収されてたんだ…」

「私と美夜は何とか『頼ろう会』を下して、全ての元凶たるこの街の土地神に戦いを挑んだの……」


 話が壮絶になってきた。神との戦い…つまり「タイタンの戦い」である。


「タイタンの戦い」とは神の子であるペルセウスが神々と戦うっていう映画である。2010年のリメイク版、オススメです。続編もあります。


「そして私達は勝った…同級生の剛田という男が神様を吸収して一体化…生贄にされた人達も戻ってきたんだ」

「ごめんなさい全然話入ってこないです…」

「とにかく、『頼ろう会』が信仰してた神様は今はオカマになってて存在しないんだ」

「でも…『頼ろう会』と骨原先輩の髪の毛が復活してるということは……」


 ……その神様が復活した--浅野姉妹はそう言いたいらしい。

 そして浅野詩音は言う。


「その真実を確かめるには骨原先輩の髪の毛が地毛なのかヅラなのかを確かめなきゃいけないのよ」

「そこが重要なんですか……?」

「現代科学の粋を集めてもアイツの毛根は復活しない。それこそ……神の力でも借りなきゃな」


 美夜さんは断言した。ホームページの中で骨原氏が誇らしげにロン毛をファサーしている。

 この色艶……頭皮から生えているようにしか見えない……


「…僕がそれを確かめてくれば、『頼ろう会』の正体が分かるんですね?」

「うん」

「でも…流石に君1人にそんな危険な役割を任せることは出来ないよ…」

「姉さん、私らは骨原に顔を覚えられてんだ。絶対警戒される…」


 小学生をスパイとして使うことに逡巡する双子探偵。が、僕の気分は既に007。


 やる気に満ち溢れる僕に対して詩音さんが何かを閃いた。


「……あの人に頼もう…」

「あの人?誰ですか?」

「我が校内保守警備同好会最高戦力…」

「そうか!『頼ろう会』事件の時まだアイツは入学してなかったし、アイツなら骨原に顔を見られていない!」


 --校内保守警備同好会最高戦力…その人の名は……



「「彼岸神楽」」


 *******************


 --『頼ろう会』に勧誘に来たおばちゃん達はまた来る的な事を言っていた。

 ので、再び勧誘に来た時に信者として入信し、教祖骨原の髪の毛を引っ張る--それがミッション。


 そして……僕は今、山間に門を構える厳かな道場の前に居た。

 双子探偵と共にその足で赴いたそここそ、校内保守警備同好会最高戦力、彼岸神楽の本拠地--『彼岸神楽流総本部』


 現役高校生でありながら剣術の流派の家元なんだそうです。


「彼岸神楽流ってのは『彼岸流』っていう流派から派生した新しい流派なんだけどね。既に500人もの門下生を抱える剣術道場なんだよここ。私達の後輩なんだ」

「神楽の戦闘力は一個軍隊にも匹敵する」


 とは浅野姉妹の弁。つまり範馬勇次郎らしい。



 なんて説明を聞きながら奥に通されたらその先で彼岸神楽こと範馬勇次郎が待ち構えていた。


「--お久しぶりです。浅野先輩」


 畳の間に重厚感ある居住まいで僕らを出迎えるその人はショートカットのボーイッシュな女性。一流派を束ねる肩書きを背負うには若すぎる印象も覚えたけどそこは流石に範馬の血…威圧感さえ覚える風格は一個軍隊クラスの戦闘力というのも納得させた。


 ……マット軍曹とどっちが強いかな。


 そんな彼女はその鋭い三白眼を僕に向けて一回りも歳下の僕に礼儀正しく挨拶してくれた。


「初めまして。彼岸神楽流初代総師範。校内保守警備同好会代表の彼岸神楽と申します」

「あ、どうも……雨宮小春です」

「お座りになってください」


 下は畳。相手は武道家。必然正座。若者の正座離れが嘆かれる昨今、僕の膝は早くも悲鳴をあげていた。


「お話は事前に伺っております。『頼ろう会』なる宗教団体への潜入……でしたか」

「そうなの…この子のお友達が『頼ろう会』に消された可能性があるの」

「『頼ろう会』については知ってるな?神楽」

「ええ、美夜先輩……先輩方が在学中、同好会資料にて何度かその事件の概要は確認しておりました。しかし…『頼ろう会』は既に……」

「だからこうしてお前を頼ったんだよ、神楽」


 美夜さんが僕の肩に手を置いて作戦を説明する。


「この坊主のとこに勧誘に来たらお前には坊主の保護者ってことで一緒に入信して欲しい…」

「知りたいのは『頼ろう会』の実態…そして骨原先輩の髪の毛が地毛なのかヅラなのか。その確たる証拠を抑えてほしいの」


 双子探偵が頭を下げる前で「先輩」と範馬勇次郎は口を開く。


「先輩には多大な恩義があります。そのご依頼、受けましょう」


 範馬勇次郎ではあるけど彼女の言動には地上最強の生物の傲慢さはない。範馬の血が薄いのかもしれない……


「小春さんは責任を持って私が守ります--」


 ミッション!骨原の髪の毛の真相を確かめよ!!



※「お前なんなん?」(エピソード「浅野姉妹の事件簿①~浅野姉妹の事件簿⑤」)

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