第二話いじめに関わるべきでないのはもはや常識である。
校長の無駄話で時間を浪費した後、教室に戻り少しのホームルームを行った。
「やっと帰れる。」
そう呟きながら。玄関に向かった。
その時俺は、目の前にいる、一人の女と目があった。そして、その女の周りを取り囲むようにして、男四人と、なにやら揉めているようだ。俺には、彼女が俺に助けを求めているように思えた。
そう思い立った時、俺はいじめの現場であると確信した。こういう場合は助けに入った方が良いのか。いや、そんなこと考えるな。大抵、仲裁に入ると、返り討ちに会うし、運良く仲裁できても、その場しのぎでしかない。次の標的は間違いなく俺になるのだろう。「よし。」となるべく小さな声で、かつ最大限に決意を表明するように発声する。俺の考えがまとまった。逃げの一択である。なるべく音を立てないように、見ていたため。すでに、バレているという、心配はないだろう。では俺はこれで。ギコギコはしません。一度歩いてしまえば、スーーと、帰るつもりだった。だが、肩を叩かれた。すでに、俺の心は冷静ではない。どれくらい冷静じゃないかって?それはもうヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ生きたい生きたい生きたい。って感じだ。まぁとにかく冷静じゃない。
意を決して後ろを振り返る。三途の川はきれいかな、綺麗だと良いな。そんなわけないね、たぶん血で汚れてるね。うん。そうだね。不安な心を中和するために、とにかく適当なことを考えまくっているのである。しかし、意外なことに。肩を叩いたのは、いじめられている女ではなく、いじめている男でもなかった。知らない女だった。
その女が口を開く、冷静に冷たく、だが非常に女性らしい声で、俺に問いかける。「あなた、何をしているの?」突然、何をといわれても困る。俺は何のことだかさっぱりなので、首をかしげる。
「あの子いじめられているみたいね。」
「そうだな。」
「でも、あなたは、見捨てたわ。」
「あぁ。」
「私なら助けるわ。」
「俺にそんな力はない。」
「もう良いか。」
俺は背を向け再び、帰ろうとする。
女が俺の前にとおせんぼしてきやがった。非常に厄介なことになった。
「私は、綾見 彩、私にもあなたが言う力というものは、持ち合わせていないみたいなの。だから、二人で救いに行きましょう。」
女は綾見 彩というらしい。そういえば、学級委員長もそんな名前だったな。いや、そんなとこよりもさらにまずいことになったなこれは。
こうなったら、あれをやるしかない。丁寧に丁重にお断りするのだ。何事も誠意を見せるのが大切。
「あー大変申し上げにくいのだが、出来ればお断りしたいと思います。」
「ダメよ。」
ダメだった。そんな気はしてた。ふと頭をよぎる、sosを表明した目。俺はなんとなくただ直感的にこう思った。今の状況こそが機転となるイベントだと。退屈な高校生活に慣れすぎて、もう笑えなくなっていた。でも、仕方ない、と諦めている自分がいた。しかし、こんな自分がひどく気持ち悪い。反吐が出る。
あーあ、もういい、どうにでもなれ。これ以上自分を嫌いになりたくない。だから、俺を連れ出してくれ、非日常に。sosの目に、綾見の自信のうかがえる目が上書きしていく。いつしか、俺は見とれていた。sosの目に支配されていたのに。彼女のsosが伝染するように、俺もまた不安に支配されていたのに。
信じてみることにした。その目を自信の目を。
「わかった。協力する。」
「じゃあ、早速いくわよ。」
「待て。」
「まだだ、計画を立ててからいこう。いじめから解放するための計画を。」
「それに、まだ聞いてないだろう。」
そうだ、まだ、彼女はあれを聞いていない。
「俺の名前は、平塚 睦 ただの学生さ。」
名一杯カッコつけるようにただ言いはなった。
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