【1話読み切り】幼馴染みと、喫茶店と、ライバルと。

空豆 空(そらまめくう)

幼馴染みと、喫茶店と、ライバルと。

今回、R要素ナシです。

そちらをお求めの方はUターン!

では、スタート


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「ねぇ、れん。社会で赤点とったって、ホント?」

 

 休み時間、いつもの悪ふざけみたいに、蓮に話しかける。蓮とは、幼稚園の頃からの幼馴染みだ。


「だー何で知ってんだよ。俺は過去は振り返らない主義なんだよっ」


 蓮も冗談混じりに、そんな風に答えた。


「けどー来週追試でしょ? 合格出来んのー?」

「あ? 誰に聞いてんの? 俺だぞ? もちろん合格……なんて、出来るわけ、ねーじゃんよぉおおおおおお」


 蓮は、大袈裟に机に突っ伏した。


「……勉強、手伝ってあげようか?」


 少しドキドキしながら蓮に提案してみる。


「え、マジ!? おう! 頼むっ! 救世主、佳奈かな様っ」


 蓮は、突っ伏していた机からガバッと顔をあげ、目を輝かせた。


 あぁもう、ダメだなぁ。私は昔から、蓮のこういう大げさなくらいの喜怒哀楽の動作と表情が、たまらなく好きなんだ。


「しょーがないなぁ。手伝ってあげるよ。じゃあ、今日の放課後ね」

「おう!」


 どうしよう、どうしよう、どうしよう! 

 蓮と……約束してしまった。勉強が目的とはいえ、二人でする約束なんて初めてだ。


 そんなことを考えると、午後の授業は全然頭に入らなくて、あっという間に放課後になった。


 放課後の教室はザワザワとしていて、勉強する雰囲気になれなかったので、私達は駅近くにある静かな喫茶店に入ることにした。


「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」


 ありきたりなセリフを掲げて、水を運んで来た店員さん。けれど。


「あ、れぇ? ゆり?」

「わっ蓮くん!? 久しぶりー!」


 その後の展開は、全然ありきたりじゃなかった。 

 私にとって最悪の展開。店員さんは偶然にも、蓮の中二の時のクラスメイト、蓮と、ウワサになったことのある可愛い女の子だった。


 せっかく蓮と二人きりになれると思ったのに。

 私の中に不安な気持ちが押し寄せてくる。



 しばらくすると、ゆりさんが注文をしたコーヒーを運んでテーブルへとやって来た。


「おまたせしましたー。コーヒーふたつと、あと、試食のケーキ。私の自信作なの。よかったら食べてみて」

「え、ゆりが作ったの?」

「うん。新作なんだよ」


 笑顔で蓮と話すゆりさんは、どこまでも女の子らしくて……敵わないなぁって、胸が……チクンと痛くなった。


 ケーキもコーヒーも美味しかった。蓮と、時々ふざけながらした勉強も、楽しかった。けれど、胸の隅っこのチクチクは、取れないまんまだった。



 喫茶店からの帰り道。


「ねぇ」

「なぁ」


 蓮と、言葉が重なった。


「あ、なに? 蓮から話しなよー」

「んー、あぁ、あのさ、明日も……勉強付き合ってくれねぇ?」

「えっ……うん。いいよ」


 なんとなく、蓮はまた喫茶店に行く口実が欲しいからかなと思った。けれど私は、蓮と一緒に居たくていいよと返事した。


「さんきゅっ! じゃあ、また明日なー!」


 手を降って立ち去る蓮の無邪気な明るい笑顔は、やっぱりカッコ良くて……ドキドキした。


 やっぱり、好きだなぁ……蓮の後ろ姿を見送りながら、そう思った。



 中学の時は、ゆりさんには適わないって、告白もせずに諦めた。

 高校でゆりさんとは学校が離れたけど、せっかくの蓮との関係が、ギクシャクするのが怖くて、まだ告白出来ないでいる。


 けれど……


 私はあることを決意した。




 結局、蓮の追試の日が来る一週間の間、私達は毎日喫茶店で勉強する事にした。

 注文を取りにくるのは相変わらずゆりさんで、蓮と少しの間談笑する。その姿はすごく楽しそうで、お似合いの二人だなぁって思った。


 けれど、気にしないことにした。それよりも、私は蓮が追試で合格できるように、精一杯勉強に付き合った。


 そして一週間後の追試前日。今日で蓮と勉強するのも最後の日。私達は喫茶店から家路に付いていた。


「ねぇ」

「なぁ」


 また、蓮と言葉が重なった。


「あーなに? どした? 今度は佳奈から言えよー」

「え、う、うん」


 私は、きゅっと唇を結んで覚悟を決めた。胸が、ドキドキする。ドキドキし過ぎて苦しい。けど……もう、諦めるのはやめたんだ! 私もこの一週間……頑張ったんだから!


「あ、あの。これ……作ってみたんだ。ゆりさんみたいには、うまく作れないけど……。明日のテスト、頑張って」


 俯きながら、この一週間試行錯誤して、やっとおいしく作れるようになったクッキーを蓮に向かって差し出した。


 私はゆりさんみたいに可愛くもないし、お菓子作りも得意じゃない。ケーキを焼いても膨らまないし、クッキーを焼いても、なかなかうまく作れなかった。けど……


 蓮のこと、小さい頃から好きだった。その想いだけは、誰にも負けない……


 だから、ゆりさんには敵わないからって、何もせずに諦めたくない。


 私は、その場で告白する覚悟をしてた。けれど、いざその時になって、試験前日に告白なんかして蓮が試験当日に集中出来なくなったらどうしようって、不安になった。だから、告白はやめておこう、そう思った。


 そんな時。私のクッキーを差し出した手がふわっと軽くなった。


「さんきゅー。すげー嬉しい。俺さ、明日の追試、頑張るわ。絶対合格する。だから……今度は勉強なしで、またあの喫茶店、付き合ってくれねぇ?」


 そう言う蓮の表情は、真剣だった。けど。


「え? ……それは……ゆりさんに、会いたいから?」


 思わず出た、不安な気持ち。すると蓮は


「へ? ゆり? なんでゆり?」


 キョトンとした表情。


「……違うの?」

「うん。ゆりは関係ない。佳奈と、デートがしたい。本当は……この一週間、佳奈といられることが嬉しかった。俺、佳奈のことが昔から好きなんだ」


 思いもよらない蓮の言葉に驚いた。


「……ほん……と? ……私も、すき。ずっと、好きだった!」


 全身の力が抜けるみたいに、足元がふわふわする。視界が、なにかあたたかいもので滲んで見えなくなってきた。


「なっ泣くなよ。あ、ハンカチハンカチっ」


 慌てながらポケットを探す蓮。


「あーこんな時に限って、ハンカチ持ってねぇ。けど、泣き止んで?」


 少し慌てながら、そう、私の顔を伺う蓮の表情が、やっぱりたまらなく可愛くて、私は涙を拭いながら、ぷっと、吹き出した。



——次の日。


 蓮の試験が終わってから、私達はまた、あの喫茶店に行った。


「いらっしゃいませー。あれ? 今日は勉強しないの?」


 そう笑顔で聞いてくるゆりさんに、


「おう! 今日はデートっ」


嬉しそうに、にかっと笑って答える蓮の笑顔が……

 

 照れ臭くて、嬉しくなった。


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『拾った猫耳少女が俺にだけ甘えん坊過ぎて困る!』

https://kakuyomu.jp/works/16817330654422714055


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【1話読み切り】幼馴染みと、喫茶店と、ライバルと。 空豆 空(そらまめくう) @soramamekuu0711

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