word6 「競馬 勝つ馬」⑤
いやいやいやいや、おかしいおかしい。いくら何でも勝てなさすぎだろ。俺が賭けた馬が負けるように逆八百長でもやられてんのか――。
いやいや、は?は?――。
「はあ!?また負けかよ!どんだけ負けんだよ!」
声を荒げすぎないよう我慢していても、ボリュームがデカくなってしまう。
「いや惜しかったですね。でも今回も良いレースだったなあ」
「いや良いレースだったじゃなくてさ。こんな勝てないもんなの競馬って。しかも今回ダントツ1番人気に賭けたのに」
「そういうときに限って勝てないんすよねえ。難しいなあ、だから面白いんすよね競馬」
「クッソおもんねえよ!」
握った空き缶を両手でさらに小さくペシャンコに潰す。そうしながら、冷蔵庫に行って新たな缶ビールを取り出した。
「あークッソ!」
空き缶をゴミ箱にワンハンドダンクする。
朝から負け続けているせいで俺は暖まってきていた。別に勝てなくてもいいやと思っていたはずなのに、何度も金が溶けていくと流石にイライラしてくる。
もう6回連続で予想を外しているので、毎回2000円賭けている俺の財布からは12000円がドブに捨てられたことになるのだ。
そうやって考えれば、さらに顔の辺りが熱くなる。
しかもプライドを捨て置きにいって1番人気に賭けたのにまた外れた。こんなの許せるはずがない。
「まあまあ落ち着いてください。次で取り戻せばいいんですから」
「……うんそうやな、次は絶対当てるわ。何が何でも当ててやる」
そう、必ず当てなければならない。でないとこの怒りが収まらない。
これは本当に現実なのかと疑いたくなるほどの焦り、そんな訳無いのに操作ミスで別の馬に賭けていたとかアプリのバグとか何かしらの間違いでお金が帰ってきてないか探す……醜さの極みのような行為。
解消できるのは賭けに勝つことで得られる喜びしかない。
敗北による飢えは勝利でしか満たせないのだ。
「頑張りましょう。僕も次本気で勝つために頑張ります」
「おう、やってやるわ。絶対勝つわ――」
次のレースの出走表に鋭く目を光らせる。競馬の知識はほぼ無いけれども……。何かびびっと来る名前をした馬がいないか全力で探した……。
しかし……。
「はあ!?いや、はあ!?――」
「おかしいやろ!これ仕組まれてるわ絶対!――」
次のレースも、その次のレースも俺は負けた。
しかも負けた分を取り戻そうと賭ける金を4000円、5000円と増やしたのでより一層酷い負けだ。
「……………………」
叫びたい言葉はたくさんあるけど、隣に後輩がいるのでもう黙るしかなかった。
そして、また飲み干した缶ビールを握りつぶしながら「決意」を頭の中でマシンガンのように唱える。
ああもう絶対許さねえこの怒りどうしてくれようか何でこんなにも当たらねえ俺が負け続けるなんてあり得ねえだろうが、絶対勝つために1番人気と2番人気に賭けて次こそは歓喜できると思ってたのにそれでも負けるなんて本気かよもう正気じゃいられねえ。
競馬で失った平和、勝って取り戻すしかねえ紙幣は、正直もう辛えわ、黒いパソコンの予想を使えともう1人の自分が言うがうっせえうっせえうっせえわ、この悪魔、自力で倒してこそスレイヤー。
俺はスマホを操作して、今朝の検索結果を写した画像を見ずに削除する。
ここまでされたら許せない、俺は強く決意した。自力で取り返さずに黒いパソコンに頼ってなるものか――。
誰でも馬鹿だと分かる決意だった――――。
何でも検索できるパソコンを手に入れました。ーBPCー(社会人編) 木岡(もくおか) @mokuoka
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