word1 「ピンポンダッシュ 誰」⑥

 黒いパソコンに触れていた指先から震えだして、背中に鳥肌を張り巡らせた――。


 なんだか、それっぽい――。直感ではそう思った――。


 1分と経たないうちに正座が辛くなってきたので足を崩し、手を後ろに着いた。天井に向けて飛ばすように大きく息を吐く。


 落ち着け落ち着け……まだ、確定ではない……。


 検索結果は俺にとってショッキングな内容だった。でもそれも含めてまだ確定じゃないから……。


 俺は本当にあの子が犯人という可能性があるのかを考え始めた。


 まさかあの子が、桜ちゃんがピンポンダッシュの犯人だと。俺に好意があると思っていたのに、俺がかっこいいから毎朝のように挨拶してくれていると思っていたのに。


「ん……毎朝のように……」


 でも確かに無くはないというか、言われてみれば可能性は1番高い気もする。そういえばピンポンダッシュをされた日はいつも、彼女の笑顔に癒されているような、それで怒りを忘れてしまっているような……。


 気づいた俺は、胸に手を置いてさらに考察する。


 俺の部屋は階段を降りてすぐの所にあるし、1番押しやすいのは彼女で間違いない。ピンポンダッシュって目立つ行動だし、大人や同級生が歩いている道で毎朝アパートの敷地に入り、ダッシュで出ていけるか。


 おじいさんが走ってきた人間を見ていないというのも、彼女が帰宅時にそのまま2階へ上がったのだとしたら……。


 お気に入りの子だと言っても所詮は他人の子供。別に赤ちゃんの時から面倒を見てきた訳でもないし、まさか異性として好きだとか性的な目で見ていたりもしない。ショックだけど、数日で忘れてしまえるレベルだ。


 だから、犯人だと受けれ入れることに抵抗は無かった。


 けれど、だとしてもまだ確定ではない。事実であれば黒いパソコンの信憑性はかなり高くなるが、信じるには早い。


 それっぽいことを言っているだけかもしれないし、そう言えばドアを開けた時に走り去るランドセルの音を聞いたこともある。


 そう思いながら黒いパソコンを見た時、さらに黒いパソコンの画面は切り替わった。


「ちなみに、被害の17回中16回は名沢 桜さんが犯人ですが、1回は男子小学生数人がその場のノリであなたの家のインターホンを押した後に、走り去りました。」


 まるで思考を読み取ったかのような文章に、俺は開いた口が塞がらなくなった……。



 翌日の朝は、いつもより40分も早く起きて、40分も早く家を出た――。


 通常よりも早くから仕事が始まるのではなくてもちろん、ピンポンダッシュの犯人をこの目で見る為だ。


 俺はしばらくその辺を散歩した後、自宅アパートの所まで戻ってくると、昨日話しかけたおじいさん家の車の裏に隠れさせてもらった。


 バレてもあのおじいさんならと思ったので、無断で――。


 ちょうど俺の部屋のドアとその周辺が見える場所に位置を取ると、目を凝らした。


 昨晩はあまり眠れなかったので、やたらと目が乾くが凝視した。


 それから数分後だった。俺の癒しだと思っていた子がアパートの階段を降りてきた。


 ――彼女にどうしてほしいのか聞かれたら、やっぱりそんなことはしてほしくなかった。


 でも彼女は階段を降りたところで左右に首を振った後、俺の部屋のインターホンを押し、アパートの裏に素早く移動した――。


 一部始終をしっかり目に焼き付けると、俺は目をぐっと閉じた。さらに瞳を手で覆ってしまった。


 涙がこぼれてしまいそうなほど目頭に溜まる……が、すぐに目を開けて頬を緩ませた。


 マジもんかもしれない――。


 失望と希望が入り混じる、只ならぬ感情を抱えながら、俺は会社に向かって歩き出した。

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