第6話 Master of Game

 私はまだ17才で、精神世界やスピリチュアルな現象、夢とかESP、心理学にすら生半可な知識しかなくて、こういう不思議な奇跡?に遭遇した場合の対処法も見当がつかない”おぼこ”?にすぎません。

 が、その「怪奇現象」?は継続していました。

 回答者の中野さんを巡る私の視覚野に映じるイメージというか全体像は、ちょうどそう、ドラッグで意識が変容した時?いわゆるラリッたとかいうような場合を彷彿する、奇妙な相貌的な様相を、相変わらず呈しているのでした。

 でもそれは錯乱というより統一された現象で、夢の不思議な叡智によって偶然にもたらされた精神的なステップアップ…そうした魂のステージのアドヴァンス…成長期の私に訪れたいわゆる”卒琢同時”のひとつなのかもしれない…

 

 …”気鋭の脳科学者”だけあって、中野さんの思考内容は、複雑精妙で、ビビッドでもあって、一見の値打ちのある?興趣、美趣に富んでいました。思考のシーケンスのテーマというか流れを規定しているのは言語的なrepresentation 内言の音なのですが、単語に纏わるイメージや付随する些末な記憶、あるいは末梢的な五感のクオリアの断片、そうしたものが総合的にテレパシーのアンテナに感知されて、なにか現代美術のオブジェのような奇妙なゲシュタルトが幻視イマージュされているのです!


 その構成物にタイトルを付けるなら、「感覚の饗宴」とでもなるだろうか…?

 

 私は自分の感覚や知性の鋭敏さとかにこれまで自信があったわけでもなくて、むしろコンプレックスを持っていて、それだからいろいろな「わからなさ」の塊であるこの世界について少しでもたくさんの「わかるための手がかり」を求めて読書してきた、と言う方が真実に近い。で、盲人が触覚を鋭敏にするみたいな、隔靴搔痒の感じに、手探りで生きてきていた…


 今、新たな「第六感」、いわば第三の眼?のような知覚の地平が開けたという、そういうブッダの悟りというか覚醒というか、その訪れで、これまでの自分が幼年期というか「さなぎ」のような未熟な存在だったことがはっきりと分かった…


 「ハッ!」とまた目が覚めました。

 私はどうもまだ夢の中にいたようだ。

 醒めたと思っていた後には、さらにややこしい、変な夢を延々と見ていたらしいのです。

 テレビではクイズの続きをやっていましたが、もうさっきのような”夢の不思議な叡智”で授けられた「新たな素晴らしいセンス」で不思議な世界が展開してはいなかった。

 退屈な日常的な風景だけでした。

 

 「あれは本当にただの夢だったのか?」それとも人間にはそういう潜在能力があって、それが現代人には開発されていない…そういうことを黙示している、何かの予知夢のようなものなのだろうか?


 わかりませんが、その共感覚?の感じは、残滓は、ありありと記憶のスクリーンに残存していました。

 

 インスピレーション、inspirationは、もともと「外部からふきこまれたもの」という意味らしいですが、自分では想像もつかないようなこういう奇天烈な?夢は、フロイト博士やユング博士ならどう解釈したろうか?


 精神分析や夢判断の本とかで調べてみたいなと思ったことです。


<おしまい。>

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掌編小説・『夢の不思議な叡智』 夢美瑠瑠 @joeyasushi

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