第4話  秘蹟

私という存在に付随する、すべてのGood-Nature な要素が、『善 』なるもののエートスが、砕け散った時、私は存在というもののアンチテーゼ、人間に侵襲することのみをレゾンデートルとする邪悪な『 天邪鬼』と化していた。

 はたせるかな、脳天にはニョキニョキと尖った、キリンのような角が生えてきた。

 鏡を見ているように、自分の姿、容姿全体のニュアンスが”邪悪の化身”そのものに変貌していくのが分かった。

 両のマナコは悪辣で険悪なニュアンスを帯びて、耳まで裂けた口元からは黄色い乱杭歯が覗いている。肌や髪の色もチープでけばけばしい、ステロタイプな「オニ」のイメージを踏襲した原色にtransformation した。


 そうして”悪鬼”と化した瞬間に、私には特殊な洞察力、千里眼やテレパシー、そういうものが備わっていた!

 周囲の悪鬼や羅刹がどういう性格で、何を考えているか、どういうイメージやら感覚を抱懐して、どういうゲシュタルトを構成しているか、そういうことが手に取るようにありありと感知できたのだ!人間の中途半端な感情移入ではなく、それはまさに”鬼”という特殊な存在形態のエイリアン、異人種に変容したがゆえに具わった超常能力だった!

 愛と美、優しさ、思いやり、純情な子供らしさ、そうした善の特性をすべて喪失したのと引き換えに、そうした超能力を獲得したというのはつまり、認識や知性のタイプにもにも人格の特性や人間関係の構造が影を落とすという、つまりはさっき閻魔大王が講義で話していたようなメカニズムゆえに招来した現象らしい…

 ”鬼”は「非人間的」という概念を抽象したイコンであって、責め苛まれる亡者を補償する100%の完全な強者…その完全な「闇」に棲息する完璧な悪、獰猛な野獣のような禍々しさの具現、そういうものに私は変貌していたのだ!

 みなぎるような「力」の感覚があった。

 目に映る亡者たちは虫けらに等しいただの犠牲者だった。人間同士ならけして生じないであろうような感覚、完全にそういう弱者たちを自分は支配していて、活殺自在の奴隷的な存在として心身ともに掌握しきっている、そうした強烈な全能感が、”鬼”となった私には覚醒していた。

 閻魔大王が授けた秘蹟によって鬼となった私が得たESP、超人たりうるためのアリバイ?は、夢の中のエピソードの一つというよりも、その刹那、私という全存在を根底から揺るがすような強力なインパクトを有していて、いわば蛹が蝶に羽化するような革命的な変異を齎す超絶的なセンセーション、そういうものの悟達となっていた。



 … …


「はっ!」

ふっと、私は目覚めて、我に返りました。

テレビはさっきのクイズ番組の続きをやっている。

中野暢子という脳科学者が回答者席に座っている。

その時です!

私は奇妙なことに気づきました…

  

<続く>


 

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