第3話 啓示


 閻魔大王は、講義用の”閻魔帳”を開いて眼で追っている。生徒の席を見渡して…ハッ!私と目が合った!忘れていたが、夢の中では私は「研修生」の鬼の一人だったのだ!閻魔様の瑠璃色の瞳、「地獄耳」と並んで配置されている炯炯煌々とした慧眼?邪眼?迫力のある双眸が私をぐっとにらみつけた。

 

「オマエ!お前は初めての顔だな。フミノ?鬼にしたら可愛らしすぎる名前だな。顔もどっちかというと仏とか菩薩やな?w新入りはイニシエーションとしてこの閻魔大王様の秘蹟を授けることになっている。さっきも言ったように鬼というのは人間界を”光”とすると”闇”にはびこる暗黒の存在、疑心が呼ぶ暗鬼、その実体化だ。人間の精神を侵襲する”魔”であるためには完璧に邪悪で攻撃的でなければならん。仏心はタブーだ。それゆえ…」


 大王は美しい宝珠を取り出した。

「これは娑婆にいたときのオマエの善行や善因、至善なるすべての”光”の要因を封入したオーブじゃ。もし地獄の鬼になりたいのならこれを粉々に打ち砕いてみよ。元はオマエは天上界の巫女だったのだ。だから天上界に還ることもできる。その場合は一糸纏わぬ姿になって、宝珠に映し出される金剛経を唱えつつ祈りをささげるのだ。どちらの道を選ぶのもオマエ次第で、つまり、お望みなら天使にも悪魔にもなれるということだ。… …」


 俗に「魔が差す」と言いますが、普段の私のパーソナリティーなら、こういう選択を迫られれば、当然「天界に戻る」、つまり”光”と同一視するほうを選んだと思うのですが、その時の私、夢の中の私には閻魔大王のしもべとなりたい、暗黒の地獄に棲息して匿名アノニマスの”闇”の存在となって愚かな人間たちを思うさまに責め苛みたい、そういう願望が勝っていて、その誘惑に勝てないという、なぜかそういう心境になっていたのです!

「こうしてやる!」

 柳眉を逆立てて、目を怒らせた憤怒の形相で、私は透明に光り輝いている美しいオーブを手に取って、思い切り地上に叩きつけました!

 音を立てて”玉砕”したオーブは四散して、虹色の煙となって、雲散霧消しました。


 … …


<続く>

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