再開

あの後ろ姿

無事に合格が決まり、採寸をして入学式を楽しみにしていた。ずっと秋入学だったり始業式だったりしたため、春入学には若干違和感があるもののそこは順応性しなければならない。日本にはこういう言葉がある。

「郷に入って郷に従え。

これはその土地の風習を尊重して従うべき」


テレビでそのような事を言っており、入学や転勤などが多いから敢えてそのような言葉を使ったのかなと実桜は推測している。カナダと日本だけでもだいぶ違うし、学校独自の校則や暗黙のルールもあるのかなと期待と不安を胸に抱いている。


月が変わって4月、実桜の通うことになる福山実業高校は家からさほど遠くなく1人で歩いて行ける距離でもあるが両親が付いていきたいという意向で家族揃って行くことになった。改めて制服を袖を通して鏡を見ると自分が別人になったかのようにかわいく見えるからフシギ。


学校の校門を通って体育館に向かうとクラス名簿が貼りだされており、自分の名前を探す。沢山友達が出来たらいいな、チアリーディング部以外にどういう部活があるのかなと出席番号順に確認をして広大な体育館の中で自分の席を探す。


当然だが隣に座っている女の子のことは顔も名前も知らない。とりあえず会釈をして咲本・ソフィア・実桜さくもと・そふぃあ・みお、日本人とカナダ人のハーフだと自分のことを自己紹介をしていた。


ふと実桜はこのように感じた。モモちゃんはたしか福山中央学園ってところに通ってたから内部進学したのかな、そうなると万里男君はじゃあどこの高校に進学したのかな。


入学式後に教室に向かい、簡単な自己紹介と必要な物を受け取って初日を終えて下駄箱に向かう。その時、どことなくモモちゃんに似た女の子を見つける。ホントにモモちゃん本人なら声をかけたいが違う人たったら恥をかくだけだと声をかけずにいた。


そう振り向こうとした時、実桜は誰かに押し倒された。

「実桜ちゃん、久しぶり。モモだけど覚えてる?まさか福山実業でまたこうして会えるとは思わなかったよ」


そう笑顔で実桜に話しかけてきたのは紛れもなくモモちゃんだった。しばらく日本に来てドタバタの日々、帰国子女枠で受験出来るのはこの学校しかなかったと話していた。


モモちゃんから衝撃な言葉を聞く。それは万里男君も別のクラスだけど同じ福山実業高校に通うことになるみたい。スポーツ学科みたいだから直接会うことは少ないかも。


その言葉を聞いてホッとしている実桜。話が弾んでいてモモちゃんはこの学校に来たのか、通っていた福山中央学園なら内部進学出来たんじゃないかと聞いた。


ずっと明るく笑顔で話していたモモちゃんが暗い顔をして口を開いた。

「普通内部進学すると思うよね……。当時福山中央学園が受け入れてくれたけど内部進学となったら別問題。学力が足りなくて出来なかったの。だから入試受けてって感じかな」


どうやら聞いてはいけないことを聞いてしまった実桜。頭を下げて謝る。すると顔を上げて、内部進学出来ていたらまたこうやって再会出来ていなかったからとポジティブに返してくれた。ホントにモモちゃんは優しいと感じた。


どこも必死

モモちゃんとの再会を果たした実桜。学校を終われば一緒に近くに遊びに行ったりしていてなんだかカナダにいた時にお互いの家に行き来したり、ジャパニーズタウンに行っていた時のことを思い出した。


久しぶりにゲームセンターに足を伸ばす。かわいい制服を着てプリクラを撮るとジャパニーズタウンで撮った時とはまた違った感じがしてフシギで仕方ない。モモちゃんに聞いても同じようなことを言っていた。


ゲームセンターを後にして近くの公園でベンチに座って喋っていた。その中でお互いに何部に入るか話し合っていた。


モモちゃんからこういう話が出てきた。

「高校生活、かわいい制服を着て毎日どこかに行ってエンジョイするのもいいけれど何か没頭出来ることがあったら楽しいし、かけがえのない仲間になるよね」


その話を聞いて入学式の前に行われた春の甲子園、センバツの話をしてチアリーディング部のことについて覚えている限りモモちゃんに伝えた。


来週、部活動紹介と新入生歓迎会があるみたいだからそこで色々な部活を見よう。チアリーディング部に目星を付けながら他にも面白そうな部活があればそこにも話を聞いて決めようよと提案してくれた。


翌週、待ちに待った部活動紹介と新入生歓迎会。

どの部活も新入生獲得に力を入れているのかなと分かるくらい魅力的な部活が多く、実桜とモモちゃんが注目をしていたチアリーディング部も数人でやっているとは思えないくらいのパフォーマンスに驚いた。


入りたい気持ちは高まってきたが上下関係が厳しそうだし、そもそも初心者だけど受け入れてもらえるだろうかと不安していた。


授業後、実桜はモモちゃんと合流した後に下駄箱に向かうと色々な部活から是非部活に入ってくださいとチラシを配布している人たちと遭遇する。校内だけでなく外でもチラシを配布していて自転車置き場て制服姿でパフォーマンスをしている女の子たちを見つける。


きっとチアリーディング部の人たちに違いないと実桜とモモちゃんは小走りに向かってその姿に感動をする。身体が蒟蒻こんにゃくのように柔らかくて思わず拍手する。


「新入生かな?私たちチアリーディング部だけどよかったら入らない?初心者大歓迎、身体が硬くても大歓迎。今は5人しかいなくて大会にも出られない状況だけどよかったら明日でも練習見に来てね。体育館でやっているから」


実桜とモモちゃん、お互いに顔を見合せてニコリと笑顔を見て何が言いたいか分かっていてその場で明日、見学に伺うと揃って答えた。


今は優しく接してくれているけど入部するとなる変貌へんぼうするのではないか、この練習は基礎なのにどうして出来ないのかと言われないか心配だった。


入部

翌日、授業が終わって体育館に向かう実桜とモモちゃん。ちょっとやってみてと言われてもいいように体育の授業がないのに体操服を持ってきていた。


とりあえず体育館を通った人にチアリーディング部がどこで練習をしているのかを聞こう。何故か通るのは男の子ばかりで聞いても分からなそうだね。次に通った女の子に声をかけようと立って待っていた。


するとその時だった。かわいらしい顔立ちでポニーテールを揺らしている女の子が歩いてくるのを見えた。何があればスグに走ってしまう実桜。その性格はここでも活かされることになるとは思いもしなかった。


「すみません、チアリーディング部ってどこでやっていますか?練習を見たくて体育館の前で待っていたんですが誰も来なくて。どこで練習しているか分かりますか?」


興味持ってくれてありがとう、そのチアリーディング部員だから一緒に付いてきて。見失わないようにモモちゃんを手招きをして一緒に練習場所に向かう。


体育の授業はないけど体操服を持ってきたことを伝えると更衣室に案内をしてくれて一緒に着替え、練習場に向かう。私立だからなのか専用の施設で設備もスゴい。


お互いの名前が分からないままではダメだったと挨拶をしてくれた。

「自己紹介してなかったね、私の名前は岸本杏華きしもときょうかでキャプテンしているよ。この前の新入生歓迎会後にチラシ配布の手伝いたかったけど、塾の模試の被ってて手伝えなかった感じで……」


「では私から。咲本・ソフィア・実桜さくもと・そふぃあ・みお好きに呼んでもらえたら嬉しい限りなので。次に私は倉敷桃姫くらしきぴいちモモでもモモちゃんとでも呼んでもらえたらと」


「実桜ちゃんとモモちゃんね。2人ともかわいい名前だね。今日はいきなり難しいワザとかしないから安心して。みんな優しい子たちだからある程度の礼儀だけ守ってくれれば大丈夫だからそこまでかしこまらなくていいよ」


他の部員が来るまでストレッチをしながら実桜とモモちゃんはそれぞれ帰国子女でどうしてこの学校に入学しようとしていた経緯などを話して親睦しんぼくを深めていた。


しばらくして他の部員もやって来て着替えてやってきた。黄緑の練習着がまたかわいい。杏華さんから実桜とモモちゃんのこと紹介をしてくれて練習が始まる。


同じ高校生がやっているとは思えないパフォーマンスに見蕩みとれいた。入部するということは自分たちも同じクオリティーでやらなきゃいけない。練習して出来るようになるものなのかの不安でしかなかった。


不安そうな顔はチアリーディング部員全員に伝わった。

「実桜ちゃん、大丈夫だよ。ここにいる全員チアリーディング初心者だったから。中には小さい時に体操やっていた子がいるくらいで全員2年生だから安心して」


初心者、それも1年そこらでこのようなパフォーマンスがホントに出来るようになるのか、杏花先輩を疑っているわけではないが相当頑張らなきゃという気持ちになる。


その場で実桜とモモちゃんは正式に福山実業高校チアリーディング部に入部することを伝えた。

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