それぞれの過去

お礼も兼ねて

実桜とモモちゃんの家は壁1つ隔てられているだけ。

だがある日、モモちゃんの家に行こうとすると歩いて数分で着くかなと思っていたら中々辿り着かない。理由としては急な坂があり、階段があり、信号が多くすぎる。


同じ街に住んでいるのになぜ通りが違うだけでまっすぐの道なのが1本曲がっただけでこんなにも坂や階段、信号が複数もある。


実桜の家から歩いて15分程するとやっとモモちゃんの家に着いた。ホントに壁1つ隔てているだけだよね、どうしてこんなに時間がかかるんだと思わず言いそうになっていた。せっかく出来た友達なのにつまらないこと言って失っては元も子もないと思っていた。


モモちゃんの案内で家にお邪魔をすることになり、お母さんに自己紹介をしてお辞儀をする。


「実桜ちゃんは礼儀正しい子だね、よかったら桃姫と仲良くしてくれると嬉しいな。クッキーを焼いてオレンジジュース入れるから手を洗っておいで」


促されるがまま、手を洗って再びリビングに戻っていた。友達の家に行くのは始めて、そう思いつつ飾ってある絵画やキレイな花瓶を見るなどをして落ち着かない様子がない感じでいた。


そうしている間にクッキーとオレンジジュースが出してくれた。

手作りクッキーを食べていると甘い感じがして、この甘いシロップはなんだろうと小声で言ったつもりだったがモモちゃんのお母さんに聞こえてしまったみたい。


「実桜ちゃん、これはメープルシロップだよ。カナダの国旗にカエデが描かれているし、国の花はカエデだから色々な料理にメープルシロップを使うのが我が家のステータスなの。もしかしてメープルシロップ苦手だった?大丈夫?」


もう既に時遅し。数枚食べてしまっていた実桜はこれがメープルシロップなのか、美味しい。仮に苦手だったとしても友達の家に行って苦手なので。とは到底言えない。


しばらくクッキーを食べ、オレンジジュースを飲んでいると唐突にモモちゃんから日本人学校に来た理由を話し出した。


「桃姫と書いてぴいちって読むと自己紹介をするとかわいい名前なのに顔はかわいくない。姫って名前なのに全然オシャレじゃないし名前負けをしていると男の子からも女の子からも言われて自分の居場所がなくて……。同じ桃姫なら、とうきとか他の読み方とかもあっただろうに。今流行りのキラキラネームなのかな。」


肩を落として落胆したモモちゃんをお母さんは名前を付けた理由についてこう述べていた。


「貴方が産まれた時、ホントにかわいくてお姫様みたいな子だな。桃のようなスベスベなお肌だからと名付けたけどそれが桃姫を傷つけることになるとは思いもしなかった。名前変えたかったら裁判所で申請して変えてもいいよ」


いいよといいつつもどこかしら寂しそうな表情を浮かべるモモちゃんのお母さん。改めて名前と言うのはずっと背負っていくものだと気がついた。実桜の由来ってなんだろうと考えるようになった。


ドキドキ

モモちゃんの家を後にした実桜、不穏な空気になっていてどうしたらよかったのか。帰りの道中、ずっとその事ばかり考えていた。自分の親に名前の由来を聞くのって恥ずかしい気もしていたが理由も気になるのは確か。


晩ご飯を食べている時に聞いてみることにする。どうして実桜っていう名前でこの漢字にしたのかと。


「実桜の由来は産まれた日、まだ日本にいた時に桜が満開でお父さんとお母さんが思わずキレイだな。桜は春の代名詞で誰もが待ち焦がれているようにこの子には自分の信じた道が実って欲しいなって願いを込めたよ」


だから桜が実という字なのか。自分の信じた道が実って欲しいって聞いて涙が出てきた。自分で聞いておいて泣くことになるとは思いもしなかった。家族の愛を感じる瞬間でもあった。


涙を拭い、お友達になったモモちゃんの話をする。

「倉敷桃姫ちゃんっていう子で名前がぴいちだからモモちゃん。そのお母さんも面白くてカナダの国旗にカエデがあるし、国の花もカエデだからメープルシロップをよく使う。クッキーにメープルシロップがかけてあって食べてから苦手じゃなかったって聞いてね、もう食べたのにって言いたくなったの」


そう笑顔で話す実桜の姿を見て両親も嬉しそうな表情を見せていた。実桜自身もこれで家族を安心させることが出来るとひと安心していた。今日、遊びに行かせてくれたから今度は家に来てもらいたいなと考えていた。


お父さんが日本人であり、実桜が日本人学校に通うこともあってお母さんは必死に覚えた日本語で話しかける。


「ミオ、コンドヨカッタラピイチチャンヲイエニヨビナ。オモテナシスルカラオカシ、ジュースナニガスキカキイテオイテ」


私たちのために頑張って日本語を覚えてくれようとしている。その姿にまたウルってくる。日本人学校にいて英語を話す必要性は現地の学校に比べて少ないが実桜も頑張って英語を書いたり話せたりしよう。出来て損はないし、カナダにいる間は少なからず英語を使う必要がある。


お母さんに感化されるように英語を勉強をしようとしていたが分からない単語、意味の分からない文法が多すぎて問題は山積になっていた。よく現地の学校に通っていたなと実感していた。


自分のことも

翌日、学校に行ってモモちゃんに今度実桜の家にも遊びに来て欲しいって思っていてお母さんから聞かれた。


「何が食べたいか、ジュースは何がいい?」


「家では飽きるほどメープルシロップを使ったものが出てくるからそれ以外かな。ピーナッツバターカップとか久しぶりに食べたいかも。ジュースはこれと言って何がいいとかはないよ」


ピーナッツバターカップ?実桜の頭の上にはハテナマークがいくつもあった。思わずそれって何か聞こうとしたが授業の時間になり、聞きそびれてそのまま時間が流れる。


学校が終わり、家に帰ってふとビーナッツバターカップのことを思い出した。聞き馴染みのない物を言われ、どんなものなのか気になってパソコンで調べてみることにする。


「ピーナッツバターカップとは少し塩気のあるピーナッツバターフィリングが中に入ったチョコレートのことを指す」そう書かれていた。


実桜の勝手なイメージではアイスクリームにバター風味でピーナッツが入っているものだと思っていたため、モモちゃんにイメージを伝えなくてよかった。世間知らずだと思われるところだったと胸を撫で下ろした。


ひとまず実桜はお母さんにピーナッツバターカップとジュースは特にこれと言って何がいいとかはないみたいと伝えるとじゃあいつ来てもいいように買い物してくると家を出ていった。今すぐじゃなくてもいいのにと思っていた。


しばらく宿題をしていた実桜、すると玄関からベルが鳴り、ドンドンと叩く音がして急かされるように玄関の方に向かっていく。ドアを開けると驚いた。


そこに居たのはモモちゃんだった。

「実桜ちゃん、今日って用事ある?なかったら一緒に遊ぼうよ。学校で誘おうとしたけど何か考え事してそうたったから声をかけにくくて。いきなりゴメンね」


特に断る理由もないため、モモちゃんを家に上げた。

実桜の家で遊べるものは何かないか、考えたが特に見つからずお母さんがピーナッツバターカップとジュースを買ってきている間、どうにかして時間潰ししようとしていた。


どうやって時間をつなげようか。自虐ネタなら場も和むし話していたら勝手に時間が経つだろうと浅はかな考えでいた。最悪話を広げれば大丈夫。


実桜の勝手なイメージではアイスクリームにバター風味でピーナッツが入っているものだと思っていたと言うとそうなの?全く同じことを思っていたと返ってきて実桜だけじゃなくてよかったと笑っていた。


よし、これで掴みはよさそうと自分の過去に付いて話そうと決める。モモちゃんなら嘲笑うこともないと信頼出来る、そう思って話し始めた。


「モモちゃん、実桜が日本人学校に来た理由はね……。年下の子にホワイトって言わたり、大好きな甘い玉子焼きが無くなったり色々あって……。それで気づいたらここにいた感じだよ。モモちゃんに比べたらちっぽけな悩みかも知れないけどね」


モモちゃんは実桜の手を握って横に首を振ってそんなことないよ。悩みに小さいも大きいもないよ。つらかったね、大変だったねと話を聞いてくれていた。


ここで疑問に思ったが前にモモちゃんは顔は少なくとも実桜よりかわいいし、着ているお洋服はかわいいのにな。優しくてかわいいモモちゃんに嫉妬してそう言われていたのかも。


その事を伝えると実桜ちゃんって優しいねと眩い笑顔でこっちを見つめていて同性なのにドキドキしそうになっていた。笑った時のえくぼもチャーミングポイントなのかも。


そうこうしている間にお母さんが帰ってきてピーナッツバターカップとリンゴジュースがテーブルに並ぶ。実桜としては食べた事の無いものを食べるのは勇気がいるが、食わず嫌いはよくないと食べてみるとネットで書かれていた通り塩気のあるチョコレートで美味しいなと感じていた。


向かいに座っていたモモちゃんは食べる時にもえくぼ出来るのか、かわいいねと伝えるとコンプレックスだったからえくぼ褒められたの始めだよ。


モモちゃんは実桜の家に数時間滞在して帰り際にこれからも友達でいようね。そう言って手を振って家を出て行った。


こんな優しくてかわいいお友達を持って実桜は幸せ者だなと実感し、いつまでも友達でいたいと強く願っていた。

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