換気タイム
CHOPI
換気タイム
「ふーっ……」
深いため息をついた、反動で深く息を吸い込む。そうしてそこで初めて、自分の呼吸が浅くなっていたことに気が付いた。ため息をついたおかけで、今の自分を客観視できた。……あぁ、悪い癖が出ている、とちょっと反省をする。
目の前のPC画面の文字羅列から目を逸らし、ゆっくりと首を上に持ち上げる。グイーッと顎が上を向き、首が伸びていく感覚が心地いい。椅子の背もたれにゆっくりと寄りかかっていき、そのまま後ろの方へと体重を移動していく。丸まっていた腰、背中が伸びていき、遂には肩まで伸びていく。両手をだらんとおろして、そのままの状態で少し目を閉じた。LEDライトの光が強く、瞼を閉じても真っ暗な世界は訪れなかったけど。
深く呼吸をしながら約10秒数える。そうして数え終わったところで、ゆっくりと目を開いた。天井が目に入る、同時にLEDライトが眩しかった。
ほんの少しだけ反動をつけて身体を起こす。壁にかけてある時計に目をやると、作業を始めてから1時間半といったところか。人間というのは面白いな、とこういう時に何気なく思う。自分の場合、どんなに集中できても持続するのは長くてこの1時間半。このあまり体内時計がズレないところが面白いな、なんて。
休憩を入れようと席を立つ。ゆっくりと淹れたインスタントのコーヒーが、香ばしい香りを放った。ブラックのままのそれを口に含めると、口の中に広がる苦み。幼い頃は嫌なだけだったその大人の味が、いつの頃からか当たり前になっていた。
コーヒーを片手に窓の方へと向かう。元々換気のために少しだけ空けていた窓を、一気に新しい空気を取り込みたくなって思いっきり開け放った。ぶわっ、と吹き込んでくる風に乗って、桜の花びらが一枚、部屋の中に舞い込んできた気がした。瞬きしたらどこにもピンク色の花弁が見つからなかったので、幻想だったのかとちょっと残念に思ったけど。だけど外を見れば、ピンク色は幻想だと直ぐにわかる。だってすでにピンク色の樹は見る影もなく、新緑の樹がそこかしこに立っているから。
開け放った窓の外から聞こえてくる、小さな子たちのはしゃぐ声。恐らく、近くの公園に散歩にでも来ているに違いない。無邪気で高らかに響くその笑い声に、なんだかこちらまで思わず笑顔をもらってしまう。そんな小さな子たちの声に色を添えるように、時折雀の鳴く声や、遠くを走る車の音が聞こえてくる。あぁ、今日も。なんて平和な日常。
「ふーっ……」
もう一度、深くため息をついた。そうしてやっぱり反動で深く息を吸い込む。先ほどまで凝り固まっていた身体が少しほぐれて、文字の羅列に
――……よし、もうひと踏ん張り!
一人気合いを入れ直し、椅子に腰かける。そうしてもう一度、目の前のPC画面の文字羅列の中に飛び込んでいった。
換気タイム CHOPI @CHOPI
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます