第16話 賭けるのは彼女の〝眼〟
アノールは余裕を見せる。
「勝負はそちらが自由に設定してくれていいよ。それなら多く取れるって話だったし」
「欲張りさんなんだね。ならやっぱり、ポーカーにさせてもらおうかな」
その真意は、ガーレイドの手札を暴くため。
——ポーカーに戻してきた。じゃあとりあえず、ガーレが心理戦に強い武器を持っているのは、間違いない。
再びテーブルの傍に立ったドミエンナ。
——けれど、それ以外の武器も間違いなくあるはずですねえ。
「ガーレイド様はアノールさんにチップを渡すということでよろしかったですか? 何を買い取るおつもりで?」
ガーレイドはヨルノを指差した。
「ヨルノを、チップ三十枚で買おう」
「……は!?」
魔女の面々はそれぞれ驚きを態度に出した。ヨルノも意識を取り戻して「へ?」と間抜けに口を開けている。ガーレイドはくすくすと。
「いやね、君たちはあまり彼女の〝眼〟を自由に使わせてくれないでしょう? 君たちのヨルノの扱い方もあまり気に入ってないんだ。だからこれは善意みたいなものさ。ボクが有効活用してあげるよ」
何を隠そう、ガーレイド自身がヨルノの眼によって「八分の一」のはずの選抜を「確実に」パスした人間である。ヨルノの〝眼〟の価値を知る者の一人。
「……なに? その物言い」
アノールから真面目な声が出た。
「人のことをモノみたいに言うんだ」
彼の顔には静かな怒りが浮かんでいる。それを見てガーレイドは少し驚きつつも、心の内でほくそ笑んだ。
「どうしたのかな。さっきまでの余裕が崩れちゃってるよ」
「そんなんどうでもいいよ。人を金で買うって言い草を聞いて気を悪くしない方がおかしいでしょ。そんな人が王様になるつもりなの?」
ガーレイドはアハッと頬をほころばせた。
「ボクはそういうの割り切れる人間なんだ。たまにはこういう手段も仕方ない」
「悪びれもせずそんなことを言えるんだ。ますます見過ごせないな」
「これも帝王学。で、結局ヨルノは売ってくれるの?」
クエスリィの傍に立つヨルノ。アノールの後ろ姿に視線を送っている。
「それは、しょうがない。〝僕ら〟の未来がかかっているわけだし僕の心情は挟めないよ。ただ、一つ条件がある。もし僕が君に勝ったなら——」
「……なら?」
アノールは鋭いまなざしで言い切った。
「ガーレ、君にはもうそういうことはさせない。王様になるにしても、ならないにしても。僕が嫌だと感じたことは、絶対にさせない」
ガーレイドも引かない。
「……面白い。でもそれなら今度は買いたくなくなっちゃうかも。ねえ、10枚足すからさ、僕が勝ったとき、アノール——君自身も——ボクのものになる、という条件を足してもいいかな? 僕の感覚ではこれで天秤は釣り合うんだけれど」
お互い、絶対に勝つという自信をもって。
「いいよ。それでいい。勝負だ」
それぞれ、能力を宣言する。
「〝
「名前はまだ、だけど……。〝人の能力の発動を阻害する能力〟」
「へえ? 良い能力だ。10枚じゃ足りなかったかもね」
ガーレイドの二戦目だと盛り上がり始める観衆たち。クエスリィが意外そうに口にした。
「アノールにゃん、カッコいいとこあるにゃあ。ヨルにゃんのためにあんなに怒るにゃんて。ヨルにゃんもそう思うにゃ?」
隣に立つヨルノを見る。しかし彼女はというと。
「……アノールが、私のために怒る?」
不審そうに眉をひそめていた。
——いや、それ、嘘だろ。じゃあなんで、ガーレは真に受けてるんだ……?
「では、カードを配りますねえ。アノールくんの先手番で」
ゲーム開始。アノールとガーレイド、それぞれの手元に五枚のトランプが配られる。アノールの初手は——。
——7のワンペアか。悪くない……よね?
クエスリィが背後に一歩だけ近づいてきたかと思うと、一瞬のうちに、手札の一枚が入れ替わった。
——流石に衆目があっちゃあ一枚入れ替えるくらいが限界だにゃあ。
アノールは驚きを極力顔に出さないように努力する。
——な、なるほど。こんな感じか。キングのワンペアもできてこれでツーペア。
ちらりとガーレイドを覗く——と、彼の目線はこちらに向いていた。どきりと心臓が跳ねる。
「どう? ベットする?」
「そ、そう……だな」
——勝負どころだよな。でも僕は初心者だし。初っ端ってのもあるし、ここは素直に……。
アノールはチップを勢いよく場に叩きつけた。自信ありげな表情。
「賭ける。5枚!」
「大きく出たね。コール」
「……うんうんそうだよね……って、コール!!?」
——降りないの!? 僕がこんなにも自信ありげなのに。
ガーレイドは余裕の微笑みを崩していない。
「まあ、僕は資産がいっぱいあるしね。勝負してみよ?」
「じ、じゃあ、チェック」
「成立ですねえ。ショーダウンです!」
ガーレイドの手もツーペアだったが、数字の強さでアノールに軍配が上がった。
「ああー、惜しい。残念だな」
——勝った。……あ、いや違うか。これがガーレの常套句。最初は勝たせてくれるのか。もしくは——ガーレの方も、いつでも仕掛けられるという訳ではないのかな?
それからアノールはしばらく勝ち続けた。たまに負けるものの、収支は大きくプラス。
「そろそろゲームに慣れてきた?」
不意に声をかけられた。
「……!? な、慣れて、きましたけど? なんですか?」
「敬語に戻ってるよ」
ガーレイドはお淑やかに笑う。アノールは、不思議と汗を掻いていた。
——勝ってるはずだ。勝ってる。なのになんだ。この嫌な感じは。
「べ、ベット」
——負けるのか? 僕の直感が何か嫌な気配を感じ取ってる。ガーレにレオンを重ねちゃったから、ビビってんのか? でもそれは勘違いじゃない。ガーレはレオンと同カテゴリの人間。こちとらずっとレオンと一緒に生きてきたんだ、同じ雰囲気を持ってる人間を嗅ぎ間違えることはない。
「じゃあそろそろ、終わらせようか」
——なら……相手がレオンなら、僕はここで勝てるか? 僕の予想が正解だったとして——ガーレが心を読んでくるのは「本人の超技術」であり「能力」は別にあるとして——レオンならその予想すら、一枚上回ってくるんじゃあないか?
「オールイン。どうかなアノール、降りる?」
「……そうだな。じゃあ僕も、オールインするよ」
ガーレイドは意外そうに目を開く。
「相当良い手みたいだね」
「けど、ショーダウンの前に一つ、指摘させてほしい」
「何を?」
初めから、アノールの狙いはチップのやり取りにはなかった。彼のプランは——。
「ガーレの反則を」
イカサマを暴いての、エクストラウィンだ。
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