第8話 選別式
外に出た。青い空には雲一つ見当たらない。
迷いが晴れたからか、昨日よりも街が活気づいて見える…いや、本当に昨日よりずっと、かなり、少し異常なくらい騒がしい。周りを見ると、剣やら何やら得物を携えた若者が多く見られた。中にはいかにも屈強な戦士、といった壮年の者もいる。
「あァ、もうそんな時期か。」
パガンが口を開く。
「あれはね、軍部の選別式…就職試験に行く人たちだよ。半年に一回行われるんだ。」
「試験…ってもしかしてあの武器で殺し合い…とか…?」
「いやいや違うよ物騒だね…いや違わないのかな?人によっては臨死体験くらいはするかも。」
パガンの言い方に言い淀みが見られる。一体『試験』で何が行われるのだろうか…
「死にはしないけど…剣が体にぶっ刺さる、くらいなら当然あるって感じかな。」
いや刺さったら死んでしまうだろう!?と俺は唾を飲み込む。
「その辺は魔術治療士がいるから平気さ。それに軍部の高位官が試験官をしてるしね。首を刎ね飛ばすとかで即死しない限り死ぬことはないし、徒党を組んで受験者が暴動を起こしても鎮圧は容易さ。」
「ナチュラルに心読むなよ。あっ、あともう一個質問。高位官ってそんなに強いのか?見る限りでも数十人は試験に向かってそうだが…」
「そりゃ試験官はネルラ卿だし。」
「あー…」と俺は納得した。むしろ納得させられた、というほうが正しいかもしれない。
パガンは「ネルラ卿なら大丈夫☆」という雰囲気を放ちながら目を閉じ腕を組んでウンウンと頷いている。
「彼女、戦闘面だけなら軍部内でも最高峰だから。」
と彼は付け足した。おそらく数百人は志望者がいるだろう。それを、一人でどうにかできると言うのだろうか…
「そんなに気になるなら見に行くかい?」
「行けるのか!?」
「何ならコレ、半年に一回のお祭りみたいなモンだし。あー私もネルラ卿を拝みたくなってきた。よし今から行こう。うん。」
そう言ってパガンはスタスタと、人々が進んでいる、会場があるであろう方角へ向かう。俺は人混みを掻き分けながら、彼を見失わぬようについていった。
式場に着くとパガンは振り向き、こっちこっちと手招いた。
彼は受付に軽く会釈をすると、受付嬢は苦虫を噛み潰したような顔をしながらも黙って一瞥し通してくれた。
「チケットとかいらないんだな。」
「本来は要るけど顔パスってことで。さ、関係者席に行こう。」
通りであんな顔にもなるわけだ、受付の人も気の毒に。こんなヤツのせいで、後でこっぴどく上司に叱られるんだろうな……
そう思いつつ、パガンの後をついて歩く。
おびただしい数の人々が通路内でも見られた。ある程度の人数でグループ分けられてそれぞれ違う方向へ…恐らく控え室にでも行くのだろう。
そんな彼らを尻目に、俺たちは会場へ向かった。
通路を抜け、会場に着いた。円形のスタジアムの中央部に大きな石造りの舞台がある。そこから横にはけた辺りに関係者席と書かれたテントがあった。テントの下には見知った大柄の女性が見える。
「あァ〜!麗しのネルラ卿〜ッ!!♡」
「キモい。」
彼女…ネルラに飛びついたパガンは一蹴され、地面にめり込むほど叩きつけられた。
「ごっ、この蒼白肌の美少年と呼ばれた私の顔がァ…」
「日に焼けねェだけだろ出不精。」
この一触即発の空気感は二度目だがどうにも慣れない。
彼女は俺にも目を向けた。数秒睨みつけたのち、顎で横の席を指す。獲物に飢えた獅子の如き目だった。地面でピクピクと痙攣するパガンを見て、俺はおとなしく席につくことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます