第7話 二日目、異世界にて
俺は買ったばかりの服に袖を通す。厚手の生地だが、伸びて動きやすい。不思議な感触だ。
パガンは、ブツブツと呟きながら寝間着から着替え、洗面所へ向かい歯を磨いた。
「まだご飯、食べてないですけど…」
「寝起きは磨く。口の中が気持ち悪い。」
そう言いながら歯を磨きつつ、髪をとかしている。横着な人だと思いながら、俺は目玉焼きトーストを頬張った。
黄身が口内でとろけ、じんわりと熱を感じる。……元の世界が、恋しい。
「そういえばキミ、帰る場所が…って言ってたが、どこの国だい?」
パガンはモゴモゴとそう言った。
「日本、です。」
「ニホン…」
聞いたこともない、という風に首を傾げた後、うがいをして、彼も食卓に着いた。パンに薄切りの肉と謎の野菜(らしきもの)をはさみ口に含む。
「あァ〜美味い!満点☆カダス式モーニング☆」
宣伝文句か…?と俺は訝しむ。
「まァそうだね。これ発明したの私だし。」
「そうなんですか!?」
心を読まれたのもあり、驚いて少しのけぞった。俺の椅子がガタッと揺れる。
「うん。ホラ、片手でご飯食べて片手で実験したいじゃん?」
なんとも彼らしい理由だ、と納得し、俺は食事を終え洗面台に向かう。
鏡には俺が映っている。日本でもコチラでも変わらない、俺だ。
俺が居て、他はいない。親も友人も……愛しい人でさえ。
歯磨きも顔洗いも無意識に済ませ、大きなため息を吐く。
「愛しい人…ねぇ?」
ニヤニヤとしながらパガンがこちらににじり寄る。茶化すような、嫌な笑顔だ。と思うと、心を読んだのか、スッと真顔になった。
「ソレがどんなヤツかは私は知らないが、その人のためにも、今立ち上がれ、勇者よぉ〜っ!!」
そう言って、昨日買ったナイフをこちらに差し出した。この国では護身用ナイフなら携帯しても良いらしい。
彼の態度は大仰ではあったが、その裏には俺に立ち直ってほしいという思いが込められているのだろう。
俺は差し出されたナイフを服のポケットにしまう。そうだ、俺にクヨクヨとしている暇はない。
「ありがとう、パガン。」
そういうと、彼はニッと笑い、
「任せ給えよ、相棒。」
と言って俺とハイタッチした。
この世界で初めての、熱い友情を感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます