第5話 アンデラ教
「さて、ついたね。おっとそこの門番くゥん。」
大きな門の前につくと、門番らしき男が2人背筋を立て、槍を携えている。パガンはそのうちの1人に、おそらく手形を見せているのだろう。
「こっちのは私のツレさ。私と同じく魔科学者で貧弱だから虐めないでおくれよ。」
「…はい。」
怪訝そうな顔をして俺の顔を覗き込んだ後、門を開け、そのまま最初の姿勢に戻って微動だにしなくなった。
「ウム御苦労、兵士諸君☆」
パガンはそう告げ、先導するように歩いてい
く。付かず離れずの距離を保ちつつ俺もついて歩いた。街中は昼間なこともあって活気があり、商店街の方からは売り文句を張り上げる声が、広場の方からは子どもたちのはしゃぎ声が聞こえてきた。地図で見たよりずっと大きく見える。
「さて、ここの商店街で色々買い揃えようか。まずは野菜だな…」
やたら葉の大きい緑色の野菜や、紫がかった謎の肉、俺用に服や歯ブラシなど日用品も何個か買ってもらえた。人生でこれほど新鮮な気持ちで買い物できる日はもう来ないだろうとさえ思えた。
「よぉし、もうそろそろ良いかな。何より私が疲れたしちょっと休憩☆」
そういうとパガンは広場へ歩いていき、ベンチに腰かけた。キミも座れ、と言わんばかりに顎で空いている方を指す。それに甘えて俺も荷物を置き、隣に座った。
「フフフッ。この国、結構いいところだろう?」
「ええ。ずっと住むわけにはいきませんが、しばらくはお世話になりそうです。」
「それは良かった☆」
彼は懐からパイプを出し、火を付け、一服する。立ち上る煙が夕暮れ時の空へと舞う。
「フゥー…」
人は皆とうに去った。消えゆく煙が黄昏に消えるのを仰ぎ、しっとりとした空気が漂う。
「…あの〜すいませぇ〜ん。」
それを破るように見知らぬ女性が本をこちらに向けて声をかけていた。
「あなた方は、神を信じますでしょうか?」
「え?ええっと…」
俺が言葉に詰まるのを見て、パガンが横から女性に返事をする。
「生憎と我々は科学の徒でね。宗教に耳を傾けることは出来ないのだよ、レディ。だが親愛の証にこれを。」
と言い、パガンは女性の手の甲にキスをした。女性はなんとも言えない表情をして、本を抱えたまま軽く会釈をして去っていった。こちらに来る以前にもあのような人は見たことがある。あれは宗教家のソレだ。
「ハハハッ。キミの居た世界にもあんなのいるんだねぇ。そう、あれは『アンデラ教』と呼ばれる宗教だ。教典を持っていたしあれは『アンデラの右腕』って宗派だね。」
「宗派って…」
「おっと、まずはお口にチャックでシンキングタイムだ。キミの思考力を試そうじゃないか。」
パガンはニマニマと笑いながらこちらを眺めてくる。期待するような、馬鹿にするような、そんな笑みだ。思考力を試す…彼の読心術からするに答えは……
「…この宗教の宗派は2つ。右腕派と仮称、左腕派。右派は穏健で、神に近づくべく精進に励み、先程の女性に見られたように教義による布教を主な活動とする。左派は…おそらく武力行使もやむなし、過激派寄りの宗派で排他的…でしょうか。」
「正ッ解!!」
パガンは抱きついてわしゃわしゃと俺の髪を弄って来た。
「正確には『アンデラの左腕』ではなく『アンデラの歩兵』だがね。人間は神の手先、教典はまやかしで人間は神に近づくことなどなく、人間とは神の寵愛を一身に受け続けている歩兵ら自身だけであって、それ以外はどうしようと問題なし、というのが奴らの思想さ。」
パガンは満足そうな笑みを浮かべている。俺はなんだか誇らしい気持ちになった。
「遠い異国から最近伝わってきた宗教だから、まだそこまで広まってもいないし、歩兵たちも軍部の監視下にあるから問題はない。どこから伝わってきたかは忘れた。私そういうの興味ないし☆」
「パガンさん、実験しか興味なさそうですもんね。」
「いやいやいやいやそんなことないさ私ニンゲンだぁい好き♡」
他愛もない雑談を続け、夜の帳は降り、星が見え始めた。
俺たちは街のホテルで夜を明かすことにした。
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