第4話 王国

パガンに指された壁に貼られた地図を見る。世界地図ではなく街の案内図のようだ。おそらく先程も名前が出た『カダス国』の地図だろう。真ん中にある大きな建物に目が行った。

「この大きな建物は何でしょう?」

「それが天下に名を轟かせるカダス城ッ!…私の職場さ!」

突然イキイキとしながらパガンは語る。

「3つの棟に分かれているだろうッ!それぞれ行政棟、裁判棟、軍部棟に別れているのさ!」

「あれ?立法機関って…」

「行政棟がまとめてやってる。国内の問題より国外の魔獣の被害のが深刻だしね☆」

「軍部…軍隊があるんですね。」

「カダス王直属の軍さ。外交なんかもやってるかな。ネルラ卿もそこ所属だよ。」

…えっ、あの人軍人なの?

「軍人…には見えない服装でしたけど。」

「まぁ彼女の場合格好とか関係ないしね。」

関係ない…魔力でどうにかしているってことか?というか卿って…

「おぉッ!飲み込みが早いねぇ!その通りさ。彼女の魔力による固有現象フェノメノンは防壁さ。」

フェノメノンっってなんだ!?いやそれよりなんで!?俺まだ何も言ってな…

「なぜってそりゃ、私心読めるし☆」

「あっ!?それがパガンさんの固有現象フェノメノン…ってことですか!?」

「御明察さ☆。魔力による固有現象をフェノメノンというッ!私ってば、諜報員とか向いてるだろう?生憎と身のこなしがぎこちなくてそんなの成れなかったが。」

「なるほ…」

「そういえばネルラに対する卿という呼び名が気になっているんだったね。」

俺の相槌すら許さず、パガンはペラペラと喋り続ける。怒涛の情報量に気圧されたが、なんとか聞く。

「彼女はね、ある貴族の一人娘だったのだよ」

「えっ!?」

あのTHE・武骨、生まれたときから野に放たれ生きてきたような相貌の人が!?

「まぁそう思っても無理はないさ。実際そういうタチで反りが合わなかったから当主殿からは毎朝毎晩お説教三昧。いよいよそれに堪えかね、彼女は当主殿を思いっきりぶん殴って病院送りにした後、家出したわけ。当主殿は呆れて縁切り、以降は軍部で過ごしてるわけさ。んで私はそれをからかって今でも『卿』呼びにしてる。」

「なんだか彼女らしいというか…パガンさん、彼女の家庭事情に詳しいんですね。」

「ん?あぁ、魔科学の家庭教師で雇われてたんだ。彼女わりと賢くて、教え甲斐もあったし胸も尻もデカくて顔もいいし公爵家だから給料高いしでウハウハさ。歳も近かったしあわよくば結婚して私が次期当主…のつもりだったんだが、家出の件でお役御免、今じゃ独りぼっちで楽しい実験の日々…」

ハッとしたような顔をして、咳払いをしたのち彼は続ける。

「おっとっと、熱くなりすぎてしまった。大方気になっていそうなことも喋れた。さて次は君がテイクする番だよ。」

「はい!何をすればいいんでしょう?」

「街に繰り出して買い物さ。生憎食料品を切らしていてね。私と一緒についてきて、キミは荷物持ちをしてくれればいい。」

「はいっ!頑張らせていただきます!」

「いいねッ!フレッシュさがあるッ!さぁ行くとしよう!」

狭い小屋を出て、数多の爆発痕を踏みながら俺は彼についていく。斯くして、俺はいよいよ、カダス国へ足を踏み入れることとなった…







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