第3話 魔力
一段落つき、少し落ち着いて今の自分の置かれている状況を理解しようとパガンに声をかけてみる。
「あのーパガンさん。」
「なんだい?」
「どうして助けてくださったんですか?」
彼は質問には答えず、椅子に腰掛け机の上のフラスコを手に取る。
「コレ、なんだかわかるかね。」
その中ではドロドロとした赤い蛍光色の液体がブクブクと泡立っている。周囲を見渡すと、赤だけでなく黄、青、黒と様々な色の薬品?がビンなどの容器に入れられ保管されていた。当然見当などつくはずもなく首を横に振る。
「フム、まぁ当然か。ならもう少し踏み込んで尋ねよう。」
そういうと彼はズイッとこちらに顔を寄せ、覗き込んできた。
「キミ、この世界の人間じゃないね?」
ドキッ、と心臓が脈打つのを感じられるほどには驚いた。ここは日本でないどころかそもそも世界が違う…異世界、なのだろうか。
「ハハハッ!答えなくたって構わない!そうだな、なぜこんなことを言い出したのか、これをかければわかるかな。」
おもむろに彼はつけている眼鏡を外し、俺につけてきた。
眼鏡をかけた途端、彼の身体が青いシルエットとなり、その中を白いモノが流れている。血液のようだがなんの滞りもなく流れるのを見るにそうではなさそうだ。
「変だろうッ!?ソレは『魔力』さ!」
魔力…ってゲームとかでよく聞くアレか…?
「と言っても、なんだかよくわからないモノに付けた仮称なんだけどね。」
プラプラとフラスコを揺らしながら近寄り、眼鏡を取り上げて、彼は喋り続ける。
「人間とその他特定の生物にのみ確認されている不思議なエネルギー。ソレが魔力。専用の器官で生み出している生物もいるけど人間は呼吸とともに生成している。これは全人類共通だ。魔力のない人間なんて、魔力の研究を始めてから一度も、少なくともこの国じゃ見たこともない。」
彼は俺の目を見据え、なだめるように言う。
「少なくとも見た目は我々と同じで、ここまで高度な知性を持っている。魔力がないからヒトでない、なんて私は言いたくない。私はお節介焼きでね。少しキミにレクチャーしよう」
彼は机の上の紙の束から3枚ほど取って寄越した。
「…現在判明しているのは人間ごとに魔力性質が違うこと、性質は親から子、孫に遺伝すること、基本は死とともに魔力は放出されること、父母の魔力性質が違うと子の魔力性質は基本は父親のものが遺伝、稀に別の形に進化を遂げること…」
「えっ…と…?」
「要するに同じ性質で遺伝させたきゃ近親相姦しろってことさ☆」
「それって生物学的にも倫理的にもどうかと思うんですが…」
「それはそう。遺伝のためでも近親で交わるなんて褒められたもんじゃないね。でも今説明したことはあんまり重要じゃないから。」
そう言った直後、彼は揺らしていたフラスコを止め、中身を床にぶち撒けた。すると液体からはたちどころに火が上がるも、5秒もしないで消えてしまった。
「っ!?今のはっ!?」
「そう、これが魔力の最大の特徴にして謎、魔力は放出されると固有の現象を起こすのさ。」
今度は黄色いビンを取ってパガンが一気に飲み干した。彼が指を壁に向けると、指先から放電し始めた。
「こんなふうに人体に入った魔力は力を込めれば放出できる。今は調節してるから指からしか出ていないけど、もし今このまま死んで、制御できなくなったら私は身体中から電気を放つ。というかもとから持っている魔力も放出して爆散する☆」
目の前の超常現象に開いた口が塞がらない。
「…と言っても、私みたいによほど魔力の多い体質じゃなきゃ爆散するほどのエネルギーは溜め込まないからそれほど危険じゃない。どうだい?さっきは誤魔化す為に言ったけど、本当に魔力科学者になってみないかい?」
俺は、正直今眼前で繰り広げられたモノに興奮しきっていた。空を飛ぶだとかスーパーパワーだとか子供の頃妄想するだけで終わりだったことが叶う!もしかしたら元の世界よりもずっと楽しい生活かも……楽しい……
『また明日ね!!』
彼女の、ヒナの声が反響する。駄目だ、俺はここにいては。今も待っている人たちのために元の世界に帰る。それに、気絶の前に聞いた声は一体…?
「…いえ、俺には帰る場所があります。なんとしてでも、そこに帰らなければいけません。」
「ハハハッ!まぁそういうよね!そうでなきゃ楽しくない!」
拍手しながら大笑いしつつも彼は続ける。
「でも帰る方法はワカンナイんだろう?ならとりあえず私の助手として過ごしてくれたまえ。君は私に協力する代わりに私はキミの手助けをする!ギブアンドテイクさ。」
彼は壁に貼ってある地図のようなものを指さして言う。
「まずは私がギブしよう。この国についてのことさ。」
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