第2話 ロクデナシ
俺をグイグイと引っ張りながら、銀髪の女は爆発音のした方へ進んでいく。隙がないものかと俺は彼女の全身を穴が空くくらいに眺め回した。軽装かつスポーティで手、腹、脚が日に焼け身体が引き締まっていることから、普段から先程のように野生動物を狩る生活をしているのだろう。そして何より特筆すべきは身長だ。最近ようやく夢の170cmに到達した俺が馬鹿らしく思えるほどデカい。胸筋ははち切れんばかり、腹筋は6つに割れているのもあって圧を感じられる。180cmは余裕で超えているんじゃないか…?
「何ジロジロ見てんだ変態」
声をかけられ身体が飛び上がり、へっぴり腰の臨戦態勢をとる。
「ビンゴかよ…まぁこの状況なら俺の隙狙って逃げようってのは当然だ。そこは褒めてやる。」
「ありがとう、ございます?」
「何だお前…調子が狂うな…」
「あの…質問なんですけど…さっきの爆発に宛があるんですか…?」
「ん?あぁ、まぁ腐れ縁ってやつだな。ホラ、着いたぞ。」
彼女から視線を外すと、目の前に鉄製の小屋があった。煤やら土やらで非常に粗末に見える。戸を叩いてみると中からヨレヨレの白衣を着た男が姿を現した。
「フン、誰だ私の邪魔をするのは全くこれだから魔科学を理解しないボンクラども…」
「おーおーそうだな。科学的検地から見て大失敗だったなパガン」
「おぉーこれはこれは麗しのネルラ卿!透き通る銀髪に艷やかな肌、筋肉の曲線美が今日も美しいね☆」
「気持ちわりぃ。流れるように腰に手を回すんじゃねぇ。」
刹那、パガンと呼ばれた男は銀髪の女…ネルラの右手で思いっきり叩かれ…壁に叩きつけられた。鉄の家屋が鈍い音を立て、男は地面に崩れ落ちる。
「ウヒャァ〜痛いッ気持ちいいかもッ♡」
「ハァ~キモい。死んでほしいかも。」
追撃の蹴りをかましているネルラに割り込んで俺はパガンに声をかける。
「さ、さっきの爆発はいったい何なんでしょうか…?」
すると床に蹴られて眼鏡もボッコボコのままへたり込んでいたパガンは目を輝かせながら俺の肩に手をかけた。
「ハハハッ!アレはねエーっとそうさ!うん!成功の素ってヤツさ!」
「要するに失敗ってこった」
「うぅーん流石のネルラ卿でもその発言は感化出来なーい♡」
「こいつはな、5年前からこうやって地面にクレーター作って遊んでやがるんだ。」
「シ・ゴ・ト!政府お抱え研究者の大切な仕事であって遊びじゃないの!」
「成功より失敗のが多いじゃねぇか。」
「成功作がどれだけ社会に影響与えたか卿もわかってるよねぇ!?私がいなきゃ今のカダスの文明は実に200年分巻き戻るのだよッ!?」
「3日に5回も爆発してりゃその200年分の進歩も偉業も全部パーだろ。」
「ハハハッ」
乾いた笑いをペルラへ向けた後、パガンは俺を見る。
「ところで君誰だい?まさか卿のボーイフレンドかいイヤぁ〜まったく卿も隅に置けないなぁ」
「ちげぇよ。ソイツは俺の狩り場で呑気に寝っ転がってたどこの馬の骨とも知れねぇヤツだ。今からコイツは断罪されて首が吹っ飛ぶ。」
「………マジぃ?」
パガンは真剣そうな面持ちで、何かを思い出すような素振りをした。
「アァーっとぉ…実は彼私が異国から呼んだ魔法科学者なんだ☆」
「えぇっ!?」
驚きのあまり声を上げると彼は俺の口をふさぎ小声で言う。
「黙っておけっ!まだ死にたくないだろう?」
俺がコクリとうなずくと彼はネルラとの会話に戻った。
「ンな馬鹿なことあるか。冗談も大概にしろ。」
「ジョーダンじゃないともぉ〜科学者が頭イッちゃってるのなんて私を見りゃわかるだろ☆」
「…ムカつくがまぁ確かにな。」
「ハハハッそうだろうそうだろう。そういうことだから、カレ、僕のとこで引き取らせてもらうよ。それじゃあネルラ卿、また会う日まで。」
「二度とこねぇよロクデナシどもが…」
ブツクサと言いながら帰る彼女を見て安心したように野郎二人はため息をつくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます