異空の神へ
ちゃこぺんそー
第1話 その男、不審者につき
「んじゃ!またねアキラくん。」
「おう、家まで送んなくて平気か?」
「うん!それじゃぁ」
そう言って、俺の彼女…ヒナは俺の家がある方向とは逆向きに自転車をこぎ出すも…砂利でこけてそのまま横転した。
「大丈夫か!?」
「えへへ…またドジっちゃった。」
ほんのり涙目になりながら彼女は言った。
「怪我は…」
「全然ダイジョーブッ!!また明日ね!!」
そう言ってすぐに自転車で走り出した。
黒く長い髪は夕暮れの光を受け、春風になびいていた。彼女とは3歳から付き合いがあり、15の夏に俺が告白して、それから2年男女としての付き合いをしている。奔放な彼女に振り回されることも多々あるが、幸せそうな彼女の顔はどんなに挫けそうなときでも俺を救ってくれる。良い意味で俺を諦めさせてくれない。愛し愛され、と言ったところだろう。
小さくなる彼女の姿を見届けたのち、俺も家へとこぎ出した。
今日のデートはどうだったろうか…と考えているうちに段々と日は落ちていった。周囲も暗くなっている帰路の途中、ある声を聴いた。
「こいつで良い……かナ」
突如として聞こえた声に驚き、急ブレーキをかけ、辺りを見回す。なんの姿も見当たらないが、ふと耳鳴りがした。
すると視界が歪み、立ってもいられなくなって、俺は硬いコンクリートに打ちつけられた。
目を覚ます。まだ違和感が抜けきらない。力も入らず、空を眺めるしかない。雲一つない晴天だ。視界の隅から鳥がフラフラと飛んでくるように見える。まだ目眩のせいで世界が歪んで……いや、違う本当にフラフラ飛んで…こちらに落ちてくる!
命の危機を感じた俺は全力で身体を横に捻った。うつ伏せの体勢になり、青々とした草が口に…いや待て、俺はコンクリートで倒れただろう。そう思いつつも落ちた鳥を見る。鋭利なクチバシが地面に突き刺さり、力無く倒れ込んでいる。カラスのようで、それよりも大きい。少なくとも、日本国内なんかにはいないであろうモノだった。前方からサク、サクと草を踏みながら歩いてくる音がする。今度は何だと恐ろしくなり思わず目を瞑る。
「テメェ、何モンだァ?」
頭上の声に顔を向けると、そこには銀色の髪の女が恐ろしい形相で俺を見下ろしていた。
「ヒィッ!」
どうか夢か幻であってくれっ!!
「なんだよプルプル震えやがッて。鳥のガキかよ。」
「…………」
「ハッ!その通りですッて面だな!オラ立てッ!」
その声とともに俺の頭がむんずと掴まれ上に持ち上がる。
「誰だか知んねぇがここは俺らカダス国の領地だ。」
「す、すみませんっ!」
「ケッ、今更謝ろうが無駄だ。今からテメェを裁判所に突きだす。ンでもッて打首だ。」
「はあっ!?ウチクビって…」
「つべこべ言うんじゃねぇ。どこの国のやつともしれねぇ不審人物、どー考えても死罪だろうが。」
「嫌ですッ!」
「うるせぇッ!良いから黙って…」
そのとき、ドカーン!!!…と爆音が響く。
音の方を見ると草と土が舞い爆風が押し寄せた。
「チッ、前言撤回だ。先にアッチを処理する。てめぇは弱そうだし後でも問題はねぇ。」
頭を掴む彼女の手が俺の両手首へ移る。
痛いくらいしっかりと掴まれ、大人しく彼女についていくこととなってしまった。
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