第14話 アナザーワールド 8 脱出

「はぁ、まさかお風呂に入れるとはねぇ。」


「ホント、ホント。どうせなら最初からこっちに合流したかった。」


ソーニャとマイナさんが、お風呂上がりで濡れた髪を乾かしながらそんなことを言い合っている。


二人共、先程まで死にかけていたとは思えないほど明るい笑顔だ。


ちなみに今はミーネとゆいゆいがお風呂を使っている。


この中で唯一の男性であるマコトは洞窟の入り口で見張りをさせている。


一応、お湯を入れたたらいと布を渡しておいたので、それで身綺麗にはしてくれるだろう。


それを渡した時のマコトの表情は何か情けない感じがしたが、まぁ、仕方がないのだ。


男に怖い目にあわされたばかりのソーニャやマイナさんに排除されないだけましだと思ってもらいたい。



しばらくして、ミーネもお風呂から出てくる。


その顔には先ほどまでの悲壮感は薄れ、心なしか元気を取り戻した様にも見える。


やっぱりお風呂の癒し効果は偉大だね。



「さて、そろそろ情報交換、と言うか、そちらの状況を聞かせてもらおうかしら?」


食事を終え、一息ついたところで、クレアがそう切り出す。


大体のところはアルちゃんが見ていたので分かるのだが、会話などを聞き取っていたわけではないので、細かいところは分からない。


後、今更だとは思うが、マコト達が正しいと決まったわけではない。ひょっとしたら、行き違いがあるだけで、相手の方に理があるかもしれないのだ。


……まぁ、そのセンはまずないだろうけど。


「そうだな、代表して俺から話そう。みんないいか?」


マコトはそう言いながらミーネやソーニャたちを見る。


彼女たちはコクンと頷き、説明をマコトに任せる。


「俺達がこっちに飛ばされてきてからの事は話したよな。まぁ、なんというか寄せ集めで、ろくに食事もとれないようなありさまだったけど、それでもうまくやってきた……つもりだったんだ。だけど……。」


当然のことながら不満は堪っていたらしい。


マコト達が拠点に戻ると、一応、無事の帰還を皆は喜んでくれた。しかし、その時間は長く続かなかった。


同行した一人が、美味しい食事にありついたと、自慢し始めたのだ。


その話を聞かされた留守番組は当然面白くもなく、その場の雰囲気はかなり悪くなったらしい。


そんな空気を払しょくするため、マコトはケンジともう一人を連れて、獲物を狩りに出かけることにした。


今度は先ほどの失敗を繰り返さないように、ミーネ達女性は留守番に置いてだ。


……マコトの考えは分かる気もするが、その状況では悪手と言わざるを得ないだろう。


残された男たち6人と、ミーネ達女性3人の間には何とも言えない重い空気が漂っていた。


ぶっちゃけ、身の危険を感じていたと言っても過言ではない、とソーニャさんが補足する。


その場にいなかったマコトには分からなかったことだが、ミーネ達が何気なさを装い、食事の支度など雑務をこなしている間も、粘っこく絡みつくような視線を常に感じていて、気分が悪かったという。


マコト達が戻ってきて、そんな空気は一旦消え去り、一人一切れだけとはいえ、長らく口にしてこなかった肉にありついたことで、その時は不満は解消されたかに見えたらしい。


しかし夜になって、男二人がソーニャたちが寝ているテントに侵入してくる。


昼間の男たちの態度が気になって眠れずにいたソーニャが、とっさに剣を抜いたことで、その場は男が引き下がる。


トイレに行った後寝惚けたんだと必死に言い訳していたが、このグループに一つしかないテントを女性陣が使っているわけで、寝惚けたというのはテントに入る言い訳には苦しすぎる。


結局ソーニャたちはそのまま朝まで起きていることにし、夜通し今後の事について話し合ったという。


「その時にはね、もう抜けることは決めてたんだけど、流石にミーネ一人だけを残していくことに気が引けてね。」


ソーニャさんがそういう。


「ソーニャさんや舞奈さんのお気持ちはありがたいのですが、やっぱりマコトさんやケンジさんを置いていくのはちょっと……。」


ミーネはマコトとケンジと同じベロベロスのメンバーである。いくら身の危険があるとはいえ、ベロベロスを抜けるという選択肢はなかったらしい。


「……俺も甘かったんだろうな。でもあの時はみんなで力を合わせることが一番いいと思ったんだよ。」


ソーニャたちからグループを抜けると聞いた時、マコトは思いとどまる様に説得したという。


しかし、彼女たちの気持ちが変わらないと分かったマコトは、今度は、昨晩事件を起こした男たちに謝罪し、反省し、これからも協力してやっていこうと説得し始めた。


このことが男たちをキレさせた。


最後に合流した三人組は、元からマコト達に協力的ではなく、普段からミーネやソーニャたちを舐めるようにして見ていた。何かきっかけがあれば襲おうと考えていたことは明白だったのだ。


そして、他の4人の男たちも、多かれ少なかれ不満を抱えていた。救出隊に参加しなかった二人は、特に、だった。


だから、三人組の一人が言った「お前らばかり美味しい思いをしやがって。たまには女を抱くぐらいの役得があってもいいだろ?」という言葉に、簡単に同調したのだ。


そうなってしまっては、もう関係を修復などと甘い事も言っていられず、マコトとケンジはソーニャたち逃がすべく、争いの火ぶたが切られた、と言うわけだった。


「それで、ケンジさんがいないのは?」


ゆいゆいが何気なく疑問を口にする。


……まったく、この子は。状況から考えればわかりそうなものでしょ。空気を読みなさいよ。


私は思わずそう呟くが一足遅かった。


ミーネはその場で泣き崩れるし、ソーニャも、唇をきつく噛んで項垂れる。舞奈さんの顔色も悪く、マコトに至っては視線を逸らしていた。


「えっと、私何か悪い事聞いちゃった?」


「まぁ、ゆいゆいだからね。ニャオお願い。」


「はーい、ゆいゆいはこっちでご飯の支度しようねぇ。」


「え、ちょっと、ご飯ってまだ食べたばかり……。」


ゆいゆいは良くも悪くも空気を読まない娘だ。そんな彼女の性格に助けられたこともあったけど、今は少しだけ退場していてもらう。


「ケンジさんは私を助けるために……。」


しばらくして、ソーニャがぼそりと呟く。


逃げ出す時、足をくじいたミーネを庇い、何とか逃がすことに成功したソーニャだったが、そのせいで逃げ遅れてしまい、相手に囲まれてしまう。


その時助けに来てくれたのがケンジだったが、多勢に無勢という事でとらえられてしまった。


その後、元の拠点に引きずられていった二人だったが、ケンジは、見せしめと言うか、男達の暇つぶしで嬲り殺されてしまった。


ソーニャに見せて心を折るつもりもあったのだろう。事実、ケンジの無残な死を目の当たりにしたソーニャは、心が折れてしまい諦観してしまった。


その後は私の見た通りで、ソーニャは間一髪のところで無事だったわけなのだが……。


「あいつらは言ってたのよ。私を嬲った後は、あなた達を見つけて同じようにしてやるって……。だから早く逃げた方がいいよ。」


ソーニャがそんな事を言ってくるが、私は聞いていなかった。


「…………ふーん、そうなんだ……。」


「リオン、どうしたの、大丈夫?」


私が俯いたままブツブツ言っているのを見てクレアは心配になったようだけど、気にしなくていいからね。私は大丈夫よ。


「リオンちゃんストップ、すとーっぷ!」


ゆいゆいを隔離してきたニャオが慌てて飛びついて来る。


「どうどう、リオンちゃん落ち着いて。魔力抑えて……冷静にね、冷静に……。」


「おかしなこと言うのね、ニャオ。私はいつも冷静よ?」


「いやいや、目の色が変わってるからっ!漏れた魔力にあてられて、ミーネが怯えてるからっ!」


「………ふぅ。もう大丈夫だから放して。流石に苦しい。」


ニャオの胸に顔を埋めさせられていた私は、そう言ってニャオの拘束から逃れる。


「じゃぁ、お仕置きの時間といきましょうか?」


「大丈夫じゃないじゃないっ!」


再びニャオの胸に抱きしめられる。


って、ホント冷静になったから放して……。このままじゃ窒息するよ。


何度かタップして開放してもらう。……あの胸は凶器だね……いろんな意味で。


「えっとね、違うからね。こっちから何もしなくても、あのバカたちには相応の報いを受けてもらうつもりなのよ。」


私はゆいゆいも呼んできて、みんなに向かって一言告げる。


「ここにいるみんなで、この世界を抜けるわよ。」





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