第13話 アナザーワールド その7 急転!

「うぅぅ……もう、お嫁に行けない。」


……いや、行く気もないけどね。


私は今、美少女に囲まれて湯船に浸かっている……。


右を向けば、服を着ていても隠しきれない、クレアの豊かな胸が惜しげもなく晒されている。


左を向けば、見た目より豊かなニャオの膨らみ……ニャオって着痩せするタイプだったんだな。


そして正面には、ゆいゆいの細やかな……。


「なんすか、その目はっ!いいえ、言わなくてもわかってるっ。リオンちゃんもヤッパリ胸なんだねっ!胸なんてただの飾りっす!エロい人にはそれがわからないんですよっ!」


どこかで聞いたことのあるセリフを言いながら、私の胸を揉みしだくゆいゆい。


どうでもいいけど隠して。丸見えだから。………刺激強すぎるのよっ。


お風呂が出来上がったとき、まっ先に服を脱いで飛び込んだのはゆいゆい。


その後続けてニャオとクレアが服を脱ぎ……何故か私まで裸にむかれて一緒に入ることに……。


抵抗はしたのよ……無駄だったけど……。これで益々バレるわけにはいかなくなった。


……というより、私涼斗に戻れるのかな?


ふとそんな怖い思考が頭をよぎる。


正直、今のこの状況は恥ずかしいのだけど、それ程抵抗がない気もする。


これが涼斗のままだったら、絶対に卒倒するか理性を失って飛び掛かっているはずだ。


そうじゃないってことは、思考が女性化してる……というか、私って元々女の子……涼斗は夢の中に出てくる男の子…………。


「わわっ、リオンちゃん大丈夫っ!」


遠くでゆいゆいがなにか叫んでるけど…………。


…………きゅぅ…………。


…………。


……………あれ?ここは………。


「あ、気づいた?」


覗き込んでくるニャオの顔………。


「嫁に欲しい。」


「やっだぁ~、もぅ、リオンちゃんでもダメだよぉ。」


「そうですッ!ニャオちゃんは私の嫁。いくらリオンでも渡さないっすよ!」


「それも違うっ!」


途端に姦しくなる中、私はゆっくりと身を起こす。


どうやらお風呂でのぼせてしまったらしい。


溺れかけた私を3人がかりで外に出し、ニャオが膝枕をしてくれていたとのこと。


「あー、迷惑かけてごめんね。」


「ううん、よく考えたら、こっちに来てからずっとリオンちゃんに頼りっぱなしってことに気づいたの。リオンちゃんだって普通の女の子だもん。不安も一杯あるのに、私達が更に負担かけて……ごめんね。」


「ううん、大丈夫だから、そんな顔しないで。」


私は申し訳無さそうな表情のニャオの頭を撫でながら、ニャオ達の裸を見てのぼせたなんて絶対に言えないな、と思うのだった。



モミモミ……モミモミ……。


「で、何でこんなことに?」


「文句を言う前に手を動かすの。昨日のお礼をしたいって言ったのリオンちゃんでしょ。」


「言ったけど……。」


昨日無様に倒れてしまい、みんなに迷惑かけてしまったので、何かお手伝いでも、と申し出たのが今朝のこと。


クレアとニャオは、そんなこと必要ないと言ってくれたのだが、ゆいゆいはニヤリと笑い、奥に連れ込まれ裸に剝かれ、こうしてお風呂でゆいゆいの胸を揉まされ……揉まさせて頂いているというのが、今の状況。


モミモミ……モミモミ……。


「ァンっ、先っぽはダメ。」


……モミモミ。


「そうそう、そんな感じ。これを毎日続ければニャオちゃんより大きくなるのよ。」


「そうかなぁ?」


私はゆいゆいの胸を揉みしだく手は休めずに、疑問の声を上げる。


「そうなのっ!人に揉んで貰うと大きくなるのよ!」


「……そうなんだ。」


私はそれ以上抗弁することもせず、無言で無心にゆいゆいの胸を揉み続ける。


なにか考えたら、全て邪な方へ行きそうだからだ。


しかし、ゆいゆいの胸は柔らかく、それでいて弾力がある。手のひらにすっぽりと収まるサイズもいい。


時折先端に触れると、顔を赤くしながら、ぐっと声を押し殺している表情は、なにかクるものがあって………。


………って、だからそういうこと考えちゃダメなんだってば!


……でも。


私はツンツンと先端を突っつくと、ゆいゆいは身を捩らせながら切なげな声を洩らす。


ヤバい………もっと恥じらう姿を見てみたい。もっと可愛い声を出させたい……、そんな欲求が湧き上がってくる……。


「リオン、大変!」


ビクッ!


ゆいゆいに襲い掛かりたくなる衝動を止めたのは、クレアの切羽詰まった声だった。


「へ、変態じゃにゃいもん。」


「何言ってるの?そんなことより大変なのよ。」


「何があったの?」


クレアの慌てた声に、ただ事じゃないと察した私は、その先を促す。


「アルちゃんからの連絡。昨日言ってたグループがヤバそうだって。」


私はすぐにお風呂を出て身支度を整える。


その間に詳細を説明してもらう。


「アルちゃんが見た状況だから、差異はあると思うんだけど……。」


アルちゃんがマコト達のアジトを探し出した時には、既に雰囲気が悪かったという。


それが爆発したのは夜半過ぎで、グループの男たちの一部が、ミーネを始めとした女性グループが寝ているところに夜這いをかけたらしい。


一応、その場では何もなかったらしいが、そのような状況で何事もなく収まるはずもなく、翌朝……つまり今朝になって、女性二人がグループから抜けると言い出し、実際に拠点をあとにしようとした。


状況が状況なだけに、マコト達も困り、女性に夜這いをかけようとした男達にとってはその状況が面白いわけがなく、結局力づくでの実力行使に出る。


そうなってしまっては、マコト達も困っているだけではいられず、グループを2分しての争いにまで拡大したとのことだった。


「で、今ニャオが先行して向かっているの。ラビちゃんも付いてるし、向こうにはアルちゃんもいるから大丈夫だと思うんだけど、急いだほうがいいと思って。」


「そうね。無茶しなきゃいいけど。」


「ちょ、ちょっと待って……。まだ……。」


装備の装着に手こずっているゆいゆいが情けない声を出す。


「ゆいゆいはここにいて。逃げ出した女性がここに来るかもしれないし、ニャオたちが避難してくるかもしれないからお留守番はいた方がいい。ポーションの場所、わかるよね?」


私はゆいゆいにそう告げると、クレアとともに飛び出す。


本当はクレアにも残っていてもらいたかったのだが、争いがひどい場合、現場で治療を要する場合があるかもしれない。そのときに治癒魔法が使えるクレアがいてくれるのは心強いのは確かだ。


「あ、あそこよ!」


しばらく行くとクレアが声をかけてくる。


前方ではキィンっと、金属同士がぶつかり合う甲高い音が聞こえる。


近づいてみると、マコトが一人の男と切り結んでいる。


見た感じマコトのほうが技量は上みたいだが、どうしても傷つけることに躊躇いがあるようで。そこを相手につかれ、結果として五分五分の戦いになっている。


「ニャオは?」


私は周りを見回すと、奥にミーネともう一人の女性が蹲っていてその二人を守るかのようにニャオが奮闘していた。


「大丈夫?」


私は二人のもとに駆け寄る。


突然声をかけられたせいか、ビクッと体を硬直させるミーネだったが、私の姿を認めると、身体が弛緩していく。


「私はちょっと足を挫いただけですから大丈夫です。それよりマイナさんが……。」


ミーネの横に倒れている女性はマイナというらしいが、辛うじて息はあるものの、呼吸は荒く、顔色も非常に悪い。


「クレア、お願い。」


「わ、私のことは……いい……。それ……より……ソー……ニャを……。」


それだけを言うのが精一杯だったのか、マイナはそのまま力尽きたように目を閉じる。


「マイナさんっ!」


「大丈夫、気を失ってるだけよ。」


クレアがそう言いながら治癒魔法を施していくと、荒れていた呼吸も健やかになり、穏やかな寝息をたて始める。


「これで、今すぐどうこうってことはないわ。」


クレアがそう言うと、よほど心配だったのか、ミーネがその場にヘナヘナと崩れる。


「良かったです。もう駄目かと……。」


「それより、ソーニャさんって?」


「あ、そうですっ!リオンさん、ソーニャさんをっ!彼女は私達を逃がすために犠牲に……。」


「安くないからねっ!」


私はミーネから拠点の方向を聞き出すと、風の加護をかけて走り出す。


もちろん、その前にニャオとクレアに、みんなを連れて私達の拠点に戻る指示をしておくことは忘れない。


敵があと何人居るかわからないけど、怪我人を抱えて、こんな場所で戦うのは不利だからね。


さて、問題は間に合うかどうかだけど……。



「あなた達、こんな時に何考えてるのよっ!」


「何って、なぁ。身動きできず自由にできる女を目の前にして、やることなんて決まってるだろ?」


「ガハハハ、違ぇねぇ。ヤることを考えてるだけだな。」


男たちの下卑た笑いが辺りに響く。


眼の前の男は3人、自分は縛られていて動けない。そして助けも絶望的となれば、この直後に待ち構えている運命は揺るぎないのだろう。


それでも必死に最後の抵抗を試みる。


「あなた達も聞いたでしょう。ここはゲームじゃないのよ。」


「はぁ?そんな与太話、誰が信じるんだよ。現にさっきの男だって消えてなくなっただろ。異世界でもなんでも、現実だったら死体が残るはずだ、違うか?」


男に言われてソーニャは押し黙る。


実際、ここが異世界ということを示すものはなにもないのだ。


魔法やスキルが使える事から、ここはゲームの中で、なにかのバグに巻き込まれた、という方が現実味があるのは確かだ。


それでも、ここは異世界だと言われたとき、すんなりと納得出来た自分がいるのも間違いない。


それだけ受ける感覚がリアルすぎるのだ。


今も男たちが、自分の衣服を引きちぎり、肌に触れてくる、この悍ましい感覚がリアルでないとするなら、何が現実だというのだろうか?


男たちの手が、露わになった胸を摑む。


「イヤぁぁ!」


悍ましさのあまり悲鳴が口をついて出る。


と同時に諦めが胸を過ぎる。


自分はこの男達に嫐られるのだと………。


マイナとミーネは無事に逃げることが出来たのだろうか?それだけが気掛かりだったが、自分にはもう何もできることは無い……と全てを諦めて、ゆっくりと瞳を閉じる………。


閉じきる前に、強い光が飛び込んでくるのが見えた。


「天使……様?」


眼の前に現れたのは、全身からまばゆい光を放つ、天使と見間違えても仕方がないだろうと思うほどの美少女だった。



「天使……様?」


「違うよ。」


女性の口から漏れた言葉を、私は即座に否定する。


昔、たしかに「天使」と呼ばれていたときもあった。


ただ、それは単なる天使ではなく「殲滅天使ジェノサイド・エンジェル」という不名誉極まる二つ名だっただけに、忘れてしまいたい過去なのだ。


「でもキラキラ……。」


「あんたもキラキラにしてあげるからっ!」


光ってるのは目眩ましのためにかけたバニッシュだ。お陰で近くの男たちは、目を抑えて転げ回っている。


脱出するなら今のうちだ。私は再度バニッシュを唱え、光で周りを見えなくする。


その間にソーニャを抱きかかえ、その場から逃れることに成功する。


あとは逃げるだけ。………一応掛かったらいいな、という程度の考えで、土魔法で落とし穴をいくつか掘っておく。


引っ掛からなくても、他に罠が仕掛けてあるかも?と考えて行動が鈍ってくれればいい。


そうして私は、お姫様(ソーニャ)の救出に成功するのだった。

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