第11話 アナザーワールド その5 コンタクト2
「そこから動くな!」
少女の近くに立っている男が叫ぶ。
「……その子をどうするつもり?」
私は足を止めるが、横ではニャオとゆいゆいも無言のまま、いつでも飛び出せる様に警戒を解かずにいる。
「連れて帰る。この子は俺たちの仲間だ。」
私の問いかけに男がそう答える。それが本当であるなら問題はないのだが……。
「証拠は?私としてはせっかく助けたその子がまた襲われるんじゃ、寝覚めが悪いんだけど?」
「助けた?お前たちが攫ったんじゃないのか?」
怪訝そうな表情を見せる男。周りにいる人たちも、動揺が隠せないようだ。
「魔獣に襲われていたところを助けたのよ。私たちが駆けつけるのがあと少し遅れていたら、ヤバかったわよ。」
「そうなのか……。」
男はしばらく逡巡したのち、態度を軟化させ表情を緩める。
「……OK、信じよう。俺たちの仲間を助けてくれてありがとう。」
「動かないでっ!」
近づいてこようとする男を私は制する。
「それ以上近づくなら、攻撃の意志有とみて反撃するわ。」
私は宙にファイアーボールを待機させて言う。
「あ、え、えぇっ!?」
男が困惑しているが、こっちとしては素性も知れない男を近づけさせるわけにはいかない。
ニャオとゆいゆいも困惑した表情を見せてはいるが、一応私を信じてくれているみたいで何も言わない。
「私達には、あなたが味方であるという証拠も、その子の仲間であるという証拠も何もないの。信じてほしいなら、……そうね、その子を助けた謝礼として金貨10枚払ってもらおうかしら?」
「な、何っ……。」
私の言葉に向こうの全員がどよめく。
「あら?お仲間の命が金貨10枚よ?安いものじゃなくて?」
(わぁ、リオンちゃん凄く悪い顔~。)
(こういうシチュ大好きだからねぇ、リオンちゃんは。)
……陰でこそこそ話すニャオとゆいゆい。うるさいよ。
「謝礼を払うまではその子から50m以上離れて。目が覚めるまでは私たちがその子を守るから。」
「それは聞けない。そちらが俺たちを信じられないように、俺たちだって、信じるに足る証拠はないんだ。コイツ……ミーネから離れてお前たちに攫われたら、後悔しきれないからな。」
(ちょっとぉ、アイツさっき「信じる」っていってたよね?)
(男なんて、そんなもんよ。結局口先だけなのよ。)
(口だけの男?サイテーね。)
「おぃ、聞こえてるからなっ!」
私達の小声での会話はどうやら聞かれていたらしく、男が真っ赤な顔で唸っていた。
「女の子の会話を盗み聞き?やっぱサイテー。」
「お前らの声が大きいんだよっ!」
ゆいゆいと男が言い合っているが、このままじゃ埒が明かないので、提案を持ち掛けることにした。
「提案その一。私たちを信じるなら、そのまま立ち去って。彼女の事は私が責任もって守るから。それで彼女が目覚めて、あなたの言っていることが本当であれば、そのまま送り届けることを約束するわ。」
「聞けないな。アンタらがミーネを助けてくれたってことは信じるが、だからと言って彼女の身柄を預ける事が出来るほど信用はしていない。」
「ま、そうよね。だったら提案その二。お互いにある程度距離を取って待機。彼女が目覚めるのを待つってのはどう?」
「……力づくで奪うっていうのもアリだぜ?」
先ほどから交渉していた男とは別の男が後ろから身を乗り出して言う。
「……あなたも同じ考えなの?」
私はその男をスルーして、さっきまで交渉していた男に問いかける。
「確かに、その方法もあるが、俺はその気はない。」
「しかし、マコト……。」
「ケンジは黙ってろっ。今はミーネの安全が第一だ。」
代表の男……、マコトが口出しをしてきた男……ケンジを窘める。
「まぁ、賢明な判断だと思うわ。私達には、自分の安全を犠牲にしてまでその子を守る義理はないからね。戦闘になれば、その子真っ先に死ぬわよ?」
私の言葉に、マコトとケンジが絶句する。
「だってそうでしょ?よく考えてみて。戦端が開かれれば私は真っ先にその子を狙うわよ。本当にあなたたちの仲間なら動揺が誘えるし、違うのであれば、あなた達に捕まって嬲られるぐらいならここで命を絶った方がその子にとって幸せだと思うからね。」
(うわぁっ、リオンちゃんえげつない~。)
(ぶれないわ~。そこに痺れないし憧れないけどねぇ。)
「ぐっ……そこまでやるかっ!」
「あら、力づくでって言ってきたのはそっちでしょ?撃っていいのは撃たれる覚悟がある奴だけよ。」
「…………そちらの提案は受け入れよう。見たところミーネは気絶しているだけのようだからすぐに目が覚めるだろう。」
マコトが少しだけ悔しそうな表情を見せた後そういってくる。
「ただし、こいつらは下がらせるが、俺はミーネの傍に居る。それが条件だ。」
これだけは譲れない、という強い意志を持った瞳で睨みつけてくる。
「それじゃぁ前提が全く意味をなさないわ。」
「わかっている。だから俺は丸腰だ。何かあれば遠慮なく魔法を打ち込めばいい。」
マコトはそういうと、武器をケンジに渡し、その場で装備を脱ぎアンダーウェアだけの姿になってミーネという少女の横に座りこむ。
「団長……。」
「マコト……。」
「団長、そこまでミーネさんを……。」
周りの男たちが、目をウルウルさせ、マコトの行為に涙ぐんでいる。
しかしそれを見ているニャオとゆいゆいの反応は、先方とは反対にとても冷ややかだ。
「うっわぁ、変態だぁ。」
「寝ている横に半裸の男……ないわぁ~。」
……うーん。私というかリョウの意識では、中々恰好ををつけた行動だと思ったんだけど、女の子にしてみればドン引きなのかぁ。勉強になるなぁ。
同じシチュに陥ったら気を付けようと、心のメモに書き込むのだった。
……30分後。
「中々起きないね。」
「うん、あの子、ある意味大物ね。」
「だね、こんなところで寝てたら普通は食べられちゃうよね。」
私達は待ちくたびれて、いい加減飽きていた。
ミーネと呼ばれた少女を中心に半径10mほどの距離を取って、私達と自称ミーネの仲間たちが向かい合っているのだが……。
「ねぇ、よく考えたら、私達なんでこんなことしてるわけ?」
「…………そうね、よく考えたら、あの娘とは何の関係もないから、ここであの人たちに預けて、その後どうなっても関係ないのよね。」
「えーと、ニャオちゃん、リオンちゃん、一応乗り掛かった舟っていうし、人として女の子を見捨てるのはどうかと……。」
「あら、ゆいゆい、そうは言うけど、あの人たちはあの娘の仲間なのよ?だから私たちが去っても問題ない。You see?」
「アッと、えっと……そうなの……かな?……でも、ほら、リオンちゃん信じられないって言ってたし……。」
「ゆいゆい、悲しいわぁ~、人と人はね、信じあう心が大事なのよ。信じられないって嘆くより、信じて傷つく方がいいって、昔の偉い人も言ってるのよ?それなのにゆいゆいったら……。」
よよよ、と泣き崩れる真似をすると、ゆいゆいは面白いぐらいに慌てふためく。
「あの、えっと、信じてないわけじゃなくて、その……あーんニャオちゃ~ん……。」
「お前ら余裕だな?」
呆れたように言うマコト。
「文句はそのお姫様に言いなさいよ。」
「まぁ、でもこのまま何もしないのもつまらないし、ご飯にしよっか?」
「そうね、お腹もすいたし。」
「じゃぁ、ちょっと獲物狩ってくるね。ゆいゆい火を熾しておいてくれる?」
「はーい……って薪がないよ?」
「さっきのトレントの枝でいいんじゃない?」
返事だけして、薪がないのに気づき困り顔のゆいゆいに助け船を出す。
トレントの本体は仕舞い込んであるが、斬り払った枝や蔦などは、まだそのあたりに沢山落ちている。
「はーい……これでいいかな?ティンダー!」
ゆいゆいが集めた薪に火をつける。
「あれぇ、中々燃えない。」
「火力が弱いんでしょ?ファイアーボールを使ったら?」
「うん、そうする……。」
しかし、トレントの枝を使った薪には中々火がつかず、結局ゆいゆいのフレイムウォールと私のフレイムランスの重ね掛けで、ようやく火を熾すことが出来た頃に、ニャオが、捌き済の肉を抱えて戻ってきた。
「うーん、美味しい。」
「でも何か忘れているような……。」
「お肉より重要なことってないでしょ?」
「「だね。」」
私達はその場で即席のバーベキューを始める。いつもと違う場所ってだけで美味しく感じるのはなぜなんだろうね?
私達が食べてると、なぜか視線を感じる。
不思議に思って周りを見ると、向こうの連中がジィーとこちらを凝視していた……怖っ!
「ゆいゆい、これで少し扇いでみて?」
私はゆいゆいにうちわを渡すと魔法を唱える。
「風よ来たれ、優しく爽やかに顕現せよ『
ゆいゆいのうちわによって煽られた臭いが、そよ風に乗って相手方の方へと漂っていく。
「くそっ!腹減ったっ!」
「肉……肉……。」
「美少女の手料理……じゅるり。」
「まともな食事してぇ!」
途端に騒がしくなる相手陣営。
「お前ら、鬼だな。」
その様子を見たマコトがつぶやく。
「たかがバーベキューぐらいで騒ぎすぎじゃない?」
「……いや、俺たちここ数日まともなもの食ってないんだよ。」
しょんぼりと言いながらも、その視線は私の持っている肉串を凝視している。
このまま目の前で食べてやろうかと思っていると、寝ている少女が身じろぎをする。
「ン……お腹、空いたぁ……。」
パチッと目を開けるミーネ。
「ミーネっ!よかった。痛いところないかっ!」
「き、」
「き?」
「きゃぁぁっ、変態っ!」
ぱちーんっと小気味よい音が鳴り響き、マコトが倒れる。
「……えっと、あれ?私は……。あっ、まこちゃんっ!」
キョロキョロと周りを見回したミーネは、マコトが倒れているのを見てとると慌てて駆け寄る。
「マコちゃん、マコちゃんt、しっかりしてっ!……ひどい……誰がこんなことを……。」
……いや、殴り倒したのキミだからね?
◇
「えっと、改めて自己紹介させてもらう。ベルべロスのリーダー、マコトだ。ミーネを助けてもらったこと感謝する。」
爽やかにそういって右手を差し出してくるが、私は無視する。
(あぁやって、さりげなく女の子の手を握ろうとするんですよ。それをナチュラルに拒絶するリオンちゃん、パネェっす。)
(なるほど、それがテなのね……手だけに。)
(ニャオちゃん、面白いです100点!)
……いや、面白くないと思うよ?
マコトは差し出した手の行き場を失い、笑顔を引きつらせる。
「私はリオン。単刀直入に聞くけど、あなたたちの仲間ってここにいるだけ?」
「いや、向こうにあるアジトにあと6人いる。」
「なるほどね……全部で12人……それなりの大所帯ね。」
「ねぇ、その残してきた人の中にリョウって男の人いる?」
横からニャオが口を挟んでくる。
「あ、いや、いなかった……と思う。」
「そう……ならいい。」
ニャオはそういって、また後ろへと下がる。
「一応確認するけど……あなたたちみんなUSOプレイヤーで間違いない?」
私がそういうと、その場が一気に騒めく。
「そう聞いてくるってことは、まさか君たちも……。」
「いえ違います。」
私はキッパリという。
「何でですかっ!」
しかしその直後、ゆいゆいにハリセンでシバかれた……そのハリセンどこに持ってたのよ?
「リオンちゃんは何がしたいんですかっ!私達もUSOプレイユアーでしょうがっ。」
「あ、いえ、なんとなく……。私はRPGでYes/Noの選択が出た時Noを選ぶタイプなの。」
「それで話が進まなくなる……恐るべしリオニズム。」
「ニャオちゃんもそこで感心しないのっ!あぁーもぅ、本当に話が進まないよぉっ!」
頭を抱えて崩れるゆいゆいを見て、悪かったかな?と少しだけ反省するけど、これは条件反射だから仕方がないのよ。
「あ、えーと、キミたちもUSOプレイヤーってことでいいんだよな?」
……だからそういう聞き方されると、違うって言いたくなるでしょうが。
「違っ……。」
「そうですよ。やっぱり私達だけじゃなかったんですね。このアナザーワールドに飛ばされて来たのって。」
私の言葉にかぶせるようにゆいゆいが言う。私に任せていたら話が進まないと思ったのだろうか?
「アナザーワールド?」
「飛ばされた?」
「どういうことだ?」
ゆいゆいの言葉に回りが騒めく。……この人たちは今までここがどこだと思っていたのだろう?
「これは、情報交換が必要みたいね。」
私はこの時、何かが動き出すという予感がしたのだ。
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