12

翌朝、私は朝食を運んできてくれた女性の看護師に、早速気になっていたことを訪ねた。






「あの…救急車を呼んでくれた人のこと、何かわかりませんか?どうしても、一言お礼を言いたくて…」




私たち三人の、命を助けてくれた恩人だ。


せめてお礼と、無事に出産できたことを、報告したい。


最後の器をテーブルに並べた彼女は、済まなそうな表情で首を横に振った。






「それが…その人、救急車が到着した時にはもういなかったらしくて、詳しいことはわからないんです」


「…そうですか」


「でも、確か…」




続いた言葉に、私は電気が走ったような衝撃を受けた。






「救急隊の人が言ってたんですけど、救急車を呼んだ人…あなたのお兄さんだって言ってたみたい。でも…紡輪つむぎわさんって、ひとりっ子なんですよね?」


「…え…?」


「聞き間違いですかね?…なんか、変な話ですよね」




変な話。


不思議な話。


彼女はそんな軽い言葉で片付けたが、私には、とても重要な事実だった。






『そうか。…賑やかになるな』




『…一緒に生きてきたつもりでいるんだ』




『円…。元気でね』






全ての点が今、線になって繋がったような気がした。








そうか…。




そういうことだったんだ。






私は…何も気づいていなかった。


気づけなかった。




いや、それ以前に、私は何も…






何も、知らな過ぎたのだ。






彼に、会わなければならない。




会って、確かめたいことがある。






私は、あの携帯電話を手に取り、あの世界に通じる番号に…彼に繋がる番号に、電話を掛けた。




呼び出し音が、三回鳴り…そして、意識が途切れた。

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