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「いや、本当に…奇跡でしたよ」




翌朝、目を覚ました私に、担当の先生や看護師達は皆口々にそう言った。


あの状態で、母子ともに命が無事だったのは本当に奇跡だと。


私にはあまり実感はないが、一時は生死の境を彷徨うほど危険な状態だったらしく、夫と父には、かなり心配をかけてしまったようだった。






「…本当に、生きた心地がしなかったんだよ」


「ごめんね。心配かけて」




生まれた赤ちゃんは、男の子と女の子の双子だった。


保育器の中で懸命に呼吸をし、時折元気な声で泣く二人は、どことなく私に似ていて、そして夫に似ている。


もう少し大きくなるまで様子を見て、問題がなければ退院できるそうだ。






「…とにかく、今日はゆっくり休んで。仕事…しばらく休み貰ったから、また明日来るよ」


「うん。ありがとう」




帰っていく夫の背中には、さすがに疲れが見えた。




ベッドに横になると、私も、どっと疲れが押し寄せる感覚がする。






長く、深い一日だった。






二人の名前を、早く考えてあげなくては。


でも今は…もう少し眠りたい。





そう言えば、あの桜並木で最後に見た人影…


きっと、その人物が救急車を呼び、私たち三人の命を助けてくれたのだろう。


一体…どんな人だったのだろう。


もし、どこの誰だかわかるなら、心からお礼を言いたい。


その人がいなければ私は…今、こんな穏やかな気持ちで眠りにつくことなど出来なかったのだから。




明日、誰かに聞いてみよう。






後は、そうだ…名前…


夫とも、話し合わなければ。




男の子と、女の子。




名前は、一生背負っていく大事なものだ。


ちゃんと、考えてあげなければ…






そんなことを、ぐるぐると考えているうちに、私は眠りについていた。


穏やかで、幸せな眠りだった。

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