10

「……っ…」


「円!」




目に突き刺さる、蛍光灯の光。


白い天井。


点滴。






ぼんやりとした意識の中で、私はここが病院であることを何とか認識した。






私…どうしたんだっけ…?


あぁ…そうだ。




買い物の帰りに、あの桜並木で…






私の赤ちゃん…二人は、どうなったんだろう。


もう、お腹の中にはいない。


それだけが、はっきりとわかる。





疲れきった父の顔が、私を見ている。


隈の浮かぶ夫の顔が、私を見ている。





ねぇ、私の赤ちゃんは、どこにいるの?









「…大丈夫。大丈夫だよ、円」




夫が、私の手を握り、優しく微笑む。






「早産だったからね、凄く小さいけど…二人とも元気だよ。…頑張ったね、円」






…良かった。




本当に、良かった。






夫の言葉を聞いて、体中の力が抜けた。




あぁ…私は、お母さんになったんだ。




ちゃんと、なれたんだ…母親に。






気がつけば私は、大きな安心感に包まれ、そのまま眠ってしまっていた。






夢の中には、優しい夫の笑顔と、顔のよく似た幼い二人の子どもたちの笑顔があった。




それは、まだ見ぬ未来であり、きっと、近い未来の現実でもある。






私は今、きっと世界で一番幸せだ。




疑いもなく、そう思えた。

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