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「買い物も一人で行くなって。俊治としはるも仕事があるんだし、そんなの無理だって言ってるのに…ちょっと過保護じゃないかな、お父さん」


「うーん…でも、男は心配することしか出来ないからね」


「もう、俊治も同じこと言ってた」




広い草原に二人並んで座り、私は、拗ねたようにそっぽを向いた。


心配してくれるのは有り難いけれど、それが過剰だと、少し息苦しく感じてしまうものだ。




父は、昔からこんなに心配症だっただろうか?


やっぱり娘と孫とでは、感覚が違うのかもしれない。






「でも、本当に気をつけてね。円」


「…うん。わかってる」




初産で、しかも双子の出産となれば、正直喜びよりも不安のほうが大きい。


でも私には、いつもそばで見守ってくれている夫がいて、父がいて、天国で見守ってくれる母がいて、そして、彼がいる。




私は、心のどこかできっと、大丈夫だと楽観視していたのかもしれない。








「円」




振り向くと、顔の見えない彼がまた、寂しそうに笑っている気がした。




同じように笑う人を、私は知っている。






「元気でね」




『…元気でね、円』






最後の、母の笑顔を思い出した。


彼が、同じ顔をしているような気がした。






「ねぇ…!また、来るから…ここにいてね」




いつも、ここにいてね。


お母さんみたいに、いなくならないで。






手を振って別れるとき、私は、上手く笑うことが出来なかった。

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