4

次に気がついた時、私は見知らぬ草原に一人立っていた。


手には、あの携帯電話が握られている。


ここは、どこだろう。


私は夢でも見ているのだろうか。






少しだけ歩いてみると、草を踏む音がする。


歩いている感覚もある。


夢とは違う。


でも、現実の世界でないことは、周りの景色を見れば明らかだ。


広い草原と高い青空。


こんな場所は知らない。






でも、母はきっとこの場所を知っていた。




この場所に、母の隠していた何かがある。






歩いていくと遠くの方に、人影が見えた。


男性らしき、後ろ姿。


一瞬、引き返そうかとも思ったが、ここには引き返す場所なんてない。


今、私は元の世界に帰る方法も知らない。


前に進むしかない。


私は、その人のもとへゆっくりと歩いていった。








「………あの…」




恐る恐る声をかけると、その男性はゆっくりと振り返った。


なぜか顔の辺りが白い靄に包まれてよく見えない。






「…驚いたなぁ。まさか、まどかがここに来てくれるなんて」


「……え…?」




円、とは、私の名前だ。






「どうして知ってるの?」


「何を?」


「私の名前。ここは何なの?あなたは誰?母のこと…」




矢継ぎ早に質問をする私の手を、彼はそっと両手で包み込んだ。


温かい、優しい手だった。






「知ってるよ。そうか…。お母さんは、死んでしまったんだね」




死んでしまった。


そう、母は死んでしまった。


もう、どこにもいない。






その瞬間、まるで糸が切れてしまったように、膝から力が抜け、私は草の上に座り込んだ。


彼が、目線を合わせるようにしゃがみこむ。


白い靄のせいで表情はわからないが、一瞬、ほんの一瞬だけ、優しい瞳が見えたような気がした。






「辛かったね、円」




『円』






彼の声と、母の声が重なる。






私は、もう涙を抑えることができず、子供のように、大きな声を上げて泣いた。




背中を撫でる彼の手が、優しく、ただ暖かかった。

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