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念の為、父に電話のことを聞いてみると、父は何も知らない様子だった。


その発信履歴のことを父に話そうかとも思ったが、やめておいた。


何となく、この携帯電話は、母の大切な秘密だったような気がしたからだ。




翌日の朝、私は自分の家に帰り、母のことでしばらく休みを貰っていた仕事に復帰した。


周りの心配の言葉には笑顔を返したが、実際のところ、心の中は寂しさと、虚しさでいっぱいだった。


気を抜けば、泣いてしまいそうで、私はただ無心になって仕事に集中した。






夜になり、一人の家に帰ってくると、その寂しさはさらに大きくなり、どうしようもない気持ちになる。


恋人の一人でもいれば良かったが、つい最近、喧嘩別れしたばかりだった。






コンビニで買った夕食を食べた後、私はあの携帯電話のことを思い出した。


履歴の日付からすると、今も使えるということは確かだ。




母が、亡くなる一時間前に電話を掛け、話していた人。


それまでも、何度も連絡を取っていた人。


父にも、私にも、秘密にしていた人。




一体、誰なのだろう。


どんな人なのだろう。


女性だろうか、男性だろうか。


その人は、母の死を、知っているのだろうか?






もし、知らないのなら、きっと報せた方がいい。


電話を掛けて、話した方がいい。




でも、もしかしたら、母が隠しておきたかった秘密を、暴いてしまうことになるかもしれない。








結局その日の夜は、迷って、掛けることが出来なかった。


次の日の夕方になってようやく踏ん切りがついて、私は、その謎の番号に電話を掛けてみることに決めた。


どんな相手であろうと、あれだけ連絡を取っていた相手なら、死を報せないわけにはいかない。




緊張しながら、私は少し震える指でボタンを押した。






呼び出し音は鳴らず、すぐにアナウンスの声が流れた。






『お掛けになった電話は、現在使われておりません』






そんなはずはない。


母がつい最近電話をかけ、実際に通話した記録がある。


履歴からではなく番号ボタンを押して掛けたために、数字を間違えてしまったのだろう。




もう一度番号を確かめて掛け直そうと電源ボタンに指を置いた時、突然アナウンスの声が途切れ、呼び出し音が鳴り始めた。





「……っ…!!」




私は驚いて、思わず電話を切ってしまった。


おかしい。


なぜ?




なぜ、呼び出し音が鳴り出したのだろう。


確かにアナウンスの声が言っていたはずだ。


今は使われていない電話番号だと。






発信履歴を見ると、番号は、間違っていなかった。


確かに私が掛けたのは、母が掛けていた電話番号と同じだった。






私は、少し恐怖を感じながらも、再びその番号に電話を掛けていた。


心の中で、好奇心と探究心が、恐怖を押し退けてしまったのだ。




先ほどと同じアナウンスが流れ始め、やがてその声が途中で途切れて呼び出し音に変わった。




一回。




二回。




三回。




そこで、私の意識はふっと途切れた。

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