44・地球での会談

「……懐かしい。三年半ぶりか……」


 私は、地球の衛星軌道にある宇宙港に戻ってきていた。イシュタル号は、宇宙港のドックの一つに入港している。


「ケルドムさんに、バッシュさん。それにピウフィオさんとクリーズさんは。火星でアフラ・アル・マズダ号を守っています。来られなかったのは少し、可愛そうですね」


 ミズキがそんな事を言う。

 私とメルシェ、それにミズキ。更にはゼイラム。これが、今回の地球行のメンバーだ。


「まあ、火星まで戻ってくれば。そこまで僻地でもない。そこそこに文化の味は味わえる。私たちも、地球で話をまとめたら。早々に戻ることにしよう」


 そんな事を言っていると。軍靴の音を響かせて。高位の軍人らしい男の影がこちらに向かってきた。見覚えがあるその男の影は、私の前で止まり。言葉をかけてきた。


「……ネレイド、見事だ。ここまでやれるとは思わなかったぞ。たかだか四年にも満たない期間で……」

「あ……。ヴィフィール兄上!!」

「お前なら、やれるとは思っていたが。これほど早く実現化するとはな。後は、地球側の問題だ。任せておけ」

「そうですね……。私は、外交は不得手です」

「シンクが、今色々とまとめている。此度のお前の率いていた木星軍の勝利により。地球側は正当なる大きな損害・・・・・・・・・を受けることになるが。まあ、当然と言えば当然だろう。今までのツケというモノだ」

「兄上。ご存じと思いますが、こちら。火星の外交官筆頭のメルーダ殿です」


 私が、後ろに下がって場所を開けると。メルーダ殿が前に出て、ヴィフィール兄上と話し始めた。


「ヴィフィール元帥閣下であられますね。私は火星の外交官、メルーダと申します。直接お会いするのは初めてでありますが、閣下の雷名はとくと存じております」

「雷名。ふむ、そう言っていただけるのは、有難いが。私はそれほどの人間ではない。今の地球では、最も位の高い軍人ではあるが、歴史を見れば私より優れた人間など、山のようにいる。メルーダ殿、私は大した人間ではないよ」

「ふむ……。どうやら、本当にそう思われているようですな。慢心のオーラが見えない」

「そうだが? この手の事で嘘をつくほどには、くだらない人間ではないつもりだ」

「上手いこと、自分の精神的な浮力を調節なさっている。上に浮き過ぎもせず、また自分を責めすぎるあまりに沈みすぎてもいない。バランス感覚の優れた方ですな」

「はは……。元帥というのは、直接戦闘よりも総指揮にその能力を傾けるべき役職であって。バランス感覚が人並外れていなければ、部下たちの個性を制御はしきれない。その為に、伸びた部分かも知れない」

「そのバランス感覚で見た、太陽系の状況。それで、危惧を覚えたが故の、妹君ネレイド嬢の地球宇宙軍からの出奔。そして、彼女を用いた太陽系にある危惧を解消するための、木星叛乱軍の戦略的勝利。信頼できる肉親を使った、なかなかの妙手かと思われます」

「ふむ。実は、地球の大統領には既に話をつけてある。マクセルスという男だが、奴は地球市民の代弁者でありながら、その地球市民の我が儘ぶりに眉をしかめていた男だ。通る名分がある以上、何としてでもこの話は通す。不健全な太陽系の利権構造を正常に戻したいと意気込んでいたぞ」

「ほほう。有難い事ですな! 地球市民腐れりと言えども、軍部や管理層にはやはり、ちゃんとした硬骨の人間がいる。まあ、そうでなければ。いかに宗主星の地位があっても地球はおのずと腐り、溶けていってしまいますからな」

「まあ、そう言う事なのだ」


 ヴィフィール兄上の後ろに、人影が寄ってきたかと思ったら。

 それは、あのシンクだった。


「よう、バカ兄妹。この俺が、データ整理して、人脈と権限を使いまくって、上手いこと話を纏める座を作ってやったぜ。一週間後、だ。地球の首都がある、イタリアのローマ市は実際の所、テロリストの発生が気になるんで候補地から外した。で、会談の場だが。日本の副都、キョウトでやってもらう。風光明媚な都市なんで、同席する俺達も楽しみでな」

「……? シンク参謀? あなた方も同席すると?」

「ああ。無論、地球大統領、地球宇宙軍元帥、火星外交官筆頭。それに外地球教化司教長の俺が同席するという、テロリストにとっては垂涎の場だ。まあ、キョウトを選んだのはそう言う意味でもある。結界によって人をはじく、神域都市だからな。あの都市は」

「警備の態勢は?」

「サキモリとニンジャに守らせる。機械製品で防御すると、ハッキングされるかもしれないからな」


 シンクはそう言うと。部下に白い缶のエナジードリンクを持ってこさせて、缶を開け、一気に煽った。

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