42・火星の外交官(ネレイド視点)
「ふむ……。叛乱の理由はそれか……。一番直接的だが、また最も分かりやすい理由だな……」
マドルスに連れていかれた、マーズセントラルの宇宙港。そこに、アフラ・アル・マズダ号を停留させて。マーズセントラルの政庁舎で会うことになった、マドルスの父であり、火星の外交官筆頭であるメルーダという男はそう言った。
「父上、俺には分からない。正しいのは地球なのか、木星なのか。この件については、全く分からない。だから、判断を父上に任せようと思って。このネレイドって女を父上に会わせる気になったんだ」
「元地球宇宙軍の中将、ネレイド提督か……。あの、地球宇宙軍の頂点、ヴィフィール殿の妹君とか」
「⁈ マジなん? それ⁈」
マドルスはどうやら、私の正体を知らなかったらしいが。その父親のメルーダは、流石に名を聞いただけで分かったようだ。
「ヴィフィール兄上の妹だという事は動かないが……。私は、地球軍中将の座は既に放擲した。自由に動くためにな」
「それで、木星に肩入れですかな?」
メルーダの目が、鋭くなった。
「いや、肩入れというわけではない。だが現状、太陽系で一番の苦しみを味わっているのが木星だからな。その苦しみを緩和し、生きていることに多少なりとも、光明を灯せるようにならねば。太陽系に怒りと苦しみの怨念が満ちることになる」
「……流石に、地球人であられますな、ネレイド様。怨念などと、科学では測れないところに着目なさるとは」
「まあ、ね。メルーダ殿。地球の古代中華圏では、悪政によって地に怨嗟が満ちると、時の王朝が倒させる、という黄金則があったのだよ。科学では測れない事柄ながら、ある意味当然と言える。人の心が、不安と先の見えない絶望に駆られた時。その国の農業生産高は落ち、また治安も悪化する。その双方が乱れれば、軍事力もまた地に落ちる。当然の帰結だ」
「……ふむ。ネレイド殿、今の地球は悪政を行っていると思われますか?」
「悪政というかな……。地球人が行っている生活の目標と、地球外人の生活の目標が全く違うというか。地球では、魔法の世界を展開することが目標となっているが、他の惑星では地球に資源を届け、文化の粋を買い寄せることが目標や目的になっている」
「それ故に、地球は慢心をしていると?」
「……? そのようなことは一言も言っていないが?」
「いえ、失礼。このメルーダ、火星の外交官筆頭として長年活動しておりますが。地球の横暴ぶりには、眉をしかめることがあるのです。確かに、地球は文化の先端。太陽系圏では、最新鋭の文明と文化を誇っておりますが。しかし、その文明文化を支えているのが何であるのかを、全く考慮していない振る舞いには眉をしかめます」
「ふむ……。メルーダ殿、貴殿も。地球に隷属している火星の民でありながらも、地球の今の行いに疑問を持っているという事か……」
「はい、そうですな。しかし、火星は地球に叛旗を翻すことはありません。何故ならば、火星の民の生活の基盤が、地球の技術のインフラによって形作られているからですな。これを崩しては、火星の民の生活は崩壊する。そう言うわけです」
「そうか……。それはよくわかった。ところで、話を最初に戻そう。木星軍は、火星軍の半数の宇宙艦艇を打ち破り。その力を示した。この事実を種に、地球に木星の液体水素資源に、正常な価格をつけさせることは可能か? メルーダ殿」
「……それによって、木星軍が二度と領域侵犯を侵さないという保証が取れるのならば。そこは、この私の弁術と今までの火星の地球に対する奉仕の二重の力を掛ければ、そう不可能な事でも無いですな」
「木星軍が領域侵犯を行った際には、資源の買取りを停止する、という罰則を掛けておけば。木星は動きが取れなくなる」
「……そうですな、それは」
「物資が正常に買い取られているうちは、木星軍は追いつめられて叛乱や暴動を起こすようなことはない。これは、確約というか。保証できる。何しろ、そんな事をしてしまったら自分の首を締めるのだからな。未開の木星人と言えども、損得勘定ぐらいはできるよ」
「……わかりました、ネレイド嬢。その条件を引っ提げて。地球での会談に臨むことにしましょう。十中七八は、話は通ると思われますよ」
「助かる……。では、後はお任せしていいか? メルーダ殿」
「……? 何をおっしゃられているのです? 貴女も同行するのですよ、ネレイド嬢。もはや、地球宇宙軍中将では無いとはいえ。貴女は、あのヴィフィール様の妹君。その影響力は、地球では大きなものでしょう。この話を確かに纏めたいのならば、貴女も己の力すべてを用いて、掛かるべきかと思われますよ」
「……ゔー……。非常に顔を出しづらい。地球で今、私が何といわれているかを考えるとな……」
「……それは、そうでしょうな。地球に恐怖を与えた、元地球宇宙軍の中将提督。裏切者以外の何者でもありませんからなぁ……」
メルーダは、何やら。優しい視線ながらもにこにこと笑っていた。
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