32・火星宇宙軍、叛乱軍迎撃艦隊(セレスリーン視点)

「君は、ね。マドルス。先鋒としてよくやってくれた。データが沢山取れたよ。叛乱軍に、何故かフォトンビームやマシンパルシービームなどという、身の丈に合わないだろう兵装があることも分かった。ゆっくり休み給え。イシュタル号の損傷は、工作艦に直させればいい」

「……! 俺には、雪辱の機会さえあれば……!」

「君はそれに値しない。君に、先鋒のデータ集め役以上の役割を、私は全く期待していない」

「ふざ、けるなっ!!」


 まったく。功名や恥に敏感過ぎる上級火星民のご子息と言うものは、厄介なものだ。私の旗艦、ティアマト号の中で。私は、目の前でやたらと雪辱の機会を望むマドルスに、ハッキリ言って辟易の思いを覚えていた。


「セレスリーン、まさか貴様。この俺に大将の座を奪われることを懸念して、損な役回りばかりを回しているのでは……、ないだろうなあっ!!」

「いい加減にしろ! この世の中の厳しさも知らぬ、ボンボンがっ!!」


 私は、指揮鞭にも使っている護身用のスタニングウィップで、マドルスを強かに打った。人間を一撃で気絶させる威力を持った、高電圧電流が迸り出て。マドルスを包む。マドルスは一撃で卒倒した。


「おい、このバカ者をさっさと下げろ。自分の船の中で、色々考えさせる必要がある。イシュタル号のブリッジクルーに引き取りに来させろ」

「はっ、畏まりました」


 私の近衛の佐官が動き、マドルスを担いで私の目の前から下げる。


「さて、フォビィ参謀。これからどうしたものかな? 叛乱軍の持つフォトンビームの兵装は、厄介。この火星宇宙軍でも、アレを搭載した船はそれほど多くない。地球の技術が必要になる兵器だからな。全くどこから都合したのやら」


 全身の肌が黒い、女性型有機アンドロイドのフォビィ参謀にそう尋ねると。

 フォビィは銀色の髪を掻き上げて、口を開いた。


「特に動じる必要はないかと、思われます。フォトンビームは確かに破壊力が大きいですが、その分エネルギー消費も大きい。おそらくは魔導系稼働機関がないために、核融合炉エンジンを積んでいる叛乱軍の艦船では、そう連射は出来ないでしょう。装甲の厚い艦や、耐久力が高い艦で。フォトンビームを受け止めて、凌ぎ。敵がエネルギー切れを起こしたところで一気に叩けば、まあ後は赤子の手を捻るように敵軍を処分・・できます」


 ふむ。読みが深いな、フォビィの奴は。確かに、フォトンビームは威力のある兵装だが、それを用いるにあたってのエネルギー消費を考えれば。フォビィの読みは正しい。


「まあ、ね。フォビィ、その通りではある。だが、こちらの艦隊にも、それほど魔導機関を積んだ船は多くない。この艦隊でも、マドルスのイシュタル、私のティアマト、それに私の同僚の火星宇宙軍大将のネルヴァッドのアプスーくらいなものだ」

「三隻もあれば、十分ではないのですか? セレスリーン。特殊兵装があるではないですか、マドルスのイシュタルは、マシンテンプテーション、貴方のティアマトは、グラビトンダイダルウェーヴ。それに、ネルヴァッド閣下のアプスーのアポカリプスクラッシュ。ハッキリ言って、規格外の特殊兵装ですよ、この三つともが」

「そうだな……。確かにそうかもしれないな。これだけのものと、総数5000隻の火星宇宙軍艦船を与えられて。叛乱軍などに後れを取ったら、私の首は吹っ飛ぶよ」


 そう、未だ分からぬ叛乱軍の侵攻艦船総数だが。先鋒に3000隻を向けてきたという事は、本隊はもっと大きな船の数を誇っていると思って間違いないだろう。

 とすれば、厄介なことだと思って、私は呟いた。


「やれやれ、なかなか楽はさせてくれないな」

「軍人が楽をするようになったら、いわば世は平和という事で。軍縮の波が巻き起こって、軍人であることの旨味が減殺いたしますよ、セレスリーン」

「もっともだな、フォビィ。我々はキツイ仕事をこなすことで、旨い思いができる。そう言う仕組みになっているんだろう。それであったら、望んでキツイ仕事を引き受けようじゃないか。軍人になった甲斐というモノを享受するためにな」

「あら、セレスリーン。軍人は人殺し稼業ですよ? それを生業にして、罪悪感は感じませんの?」

「ふん。何を言っているフォビィ。軍人の仕事の本義は、人殺しというよりも人間の選定だ。我らは確かに人を殺す。だが、不思議なことに、幾ら殺そうと思っても死なない人間と、指先で押したくらいの圧力しか加えていないのに脆くも絶命する人間がいる。要は、存在の意志が強い人間は生き残り、己を曖昧にしていたり、生への執念が弱い人間が死ぬ。生に執念を燃やさぬ人間を殺すことに、罪悪感など憶えぬよ、私は」

「ふーん。貴方は、天使? 悪魔? それとも、神の代行者にでもなったつもりかしら?」

「どれでもないな。私は、人道を戦場という修羅場で通したいと願うものにすぎん。タダの人間さ」

「へえ? 珍しくよく喋るのね、セレスリーン」

「そうだな。珍しい事だよ、フォビィ」

「それで、方針を教えて。私は参謀として、どのような結果を現出する作戦を立てればいいの?」

「……そうだな。叛乱軍の気勢を挫いて、二度と立ち上がる気を無くさせたい。何か妙案があるかな?」

「……そうね、少し考えさせて。自室に戻って考えてもいいかしら?」

「ああ、ゆっくり考えて、妙案を出してくれ。こちらには、刻限までの猶予は少なくない。存分に叛乱軍を料理できるように、下ごしらえをしておこう」

「うふふ、悪い人。じゃあ、ね。セレスリーン。明日の朝食には、名案が出ていると思うわ」


 そう言うと、ティアマト号のブリッジから去っていくフォビィだった。

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