30・木星の先鋒(イオス視点)

「掛かった!! 総艦艇、敵旗艦部隊に総攻撃開始!! 頭を潰してしまえば、幾ら火星軍と言えども! 引き上げざるを得んっ! 敵に無駄な死者を出さないためにも、こちらに無駄な死者を出さないためにもっ!! ここで決めるぞっ!!」


 私は、ネレイドに授けられた策を用いた。前方に重力の吹き溜まりがある地点で宇宙の岩石の中に仕込んだネットを、敵に撃たせることで・・・・・・・・・展開し、それを破らせる。


『当然、敵はそこに突っ込んでくる』


 戦闘前に、ネレイドはあの旗艦、アフラ・アル・マズダ号でそう言っていた。


『どういうことだ?』

『ふむ。ネットで進撃を防ぐという事は。その地点には来てほしくないと敵に言っているようなものだ。防止網とはそのような効果を持つ物だしな』

『しかし、別にあの地点に敵が来たところで。我々は困るどころか喜ぶぞ?』

『だからだよ、イオス。だからこそ敢えて機雷ネットを仕掛けるのだ。防がれればぶち破って突っ込んできたがるのが、軍人というモノ。そう言ったことは気持ち的に分からないか? イオス』

『非常によくわかるが……、いや。この罠、十中八九掛かる、な。敵は』

『分かって来たか。入ってほしい地点に入るなと言う罠を仕掛けることで、敵はうまうまとその罠を破って中に入ってくる。そう言う作戦だ』


 と、まあ。こんな会話があったのだが。

 どこからでも入ってこれる、広大な宇宙空間の中で。

 罠をしかけることで特定の宙域に敵を誘導する。これは巧いやり方だと私は思った。

 ともあれ、今は撃つときだ。

 愚かにも、見事に罠にはまり、身動きが取れなくなっている敵の旗艦に向かって。


「旗艦、ガウル・ラン・ゴード!! 主砲フォトンビーム、三連斉射!! 放てっ!」


 ネレイドの連れていた、クリードという技術将校が設計図を示し、製造を指南。ケルドムという将校が撃ち方を指南してくれた、地球の兵器を木星圏で作ったもの。

 実験段階で、恐るべき威力を発揮したその主兵装を撃ちまくって敵旗艦を守る護衛艦を撃ち減らしていく……。

 宇宙に光の花が咲き、5隻、10隻、50隻と。身を挺して敵の旗艦を守るためにカバーに入ってくる敵艦が次々と破壊され、蒸発していく。

 中に乗り込んでいるであろう、火星人たちと一緒に……。


「イオス様!! 敵旗艦に何か妙な動きが見られます!!」

「? モニターに出せっ!!」

「はっ!!」


 モニターに敵旗艦の姿が移った。何やら、薄いピンク色の光が収束していって……!


「いかん!! ネレイドに言われていた、マシンテンプテーションだ!! 全艦隊、搭載AIに思考回路防御結界を張れっ!!」

「間に合いませんっ!!」

「なんだとっ!!」

「敵の特殊兵装の展開速度、速いですっ!!」


 敵旗艦、イシュタル号とやらから! 濃いピンク色の波動が迸る!!

 そして、味方のうち。1000隻ほどがその光に包まれた。


「イオス様!! 味方の! 先鋭部隊が矛先を翻して味方たる我々に砲撃を浴びせてきますっ!!」


 くそっ!! ネレイドから言われていたではないか! 敵は、AIを乗っとるかのようにその思考を己の物のように操る、と!


「うっ、撃つなっ!! 撃たれても撃つなっ!! 味方の艦艇のシステム技師が復旧作業を終えてエラーを取り除くまでは! 結界シールドを張って凌げっ!!」


 ここで味方を撃ってしまったら。私が信王として木星の民に接してきた成果も人徳も消し飛んでしまう。私自身の為にも、味方の為にも。ここは撃つわけにはいかないのだ!


「イオス様! 敵にAIを乗っ取られた味方艦艇、五隻ほどがこちらに突っ込んでまいります!! 腹に抱えたミサイルもろとも爆発された日には……! 洒落では済みません!! 主砲発射の許可を!!」


 オペレーターから報告を受けた艦長が私にそう告げてくる。


「ダメだ!! 撃つなっ!!」

「この旗艦が危ないのですっ!!」

「ええい!! 仕方がない! 特殊兵装を使う!! 兵装長!! マシンパルシービーム発射準備だ!!」


 私は、この艦や他にも何隻にか装備させている特殊兵装のマシンパルシービームを使うことにした。これは、機械の機能を一時的に麻痺させるものだ。ガニメデの兵工廠で、あの異常に頭のキレるクリーズという男がガニメスやその部下に製法を教えて作ったものである。


「了解です!! マシンパルシービーム!! 発射します!!」


 兵装長の声と共に。旗艦、ガウル・ラン・ゴードから迸る光線が撃ち出され。

 迫ってきた味方五隻を機能不全にする!


「敵に撃たれる前に、マシンテンプテーションを喰らった味方を守る!! 各艦、味方艦に襲い掛かられた際は、マシンパルシービームで対応。敵を見たらフォトンビームもしくはヒートビームで撃沈せよ!!」


 私はそう命令を出して、部下の艦隊を率いて。


 敵旗艦イシュタルを仕留めるべく敵陣宙域に艦隊を進めて踏み込んでいった。

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